INTERVIEW
全国のひょう害車を救うプロ集団
株式会社ライトホープ
代表取締役 門倉光希

雹(ひょう)の被害を受けた車の修理を専門とする「株式会社ライトホープ(LHS)」。雹災発生後、すぐに現地で修理拠点を立ち上げ、デントリペアという技術で無数のへこみをスピーディに修復する。修復歴が残らず、車の価値を下げない点や、スマホで撮影した動画から被害状況を診断するサービスなど、被害に戸惑うユーザーに寄り添う姿勢が光る。今回は代表・門倉光希さんに、日本ではまだ馴染みのない「ヘイルマン」という仕事の実際と、今後の展望を聞いた。

雹害車の修理を専門に行う
株式会社ライトホープ(LHS)は、雹(ひょう)の被害を受けた車の修理に特化したプロ集団です。雹害車の修理として、日本では「板金塗装」が主流ですが、実はより適した方法があります。それが「デントリペア」という技術です。デントリペアとは、へこんだ部分を裏側から押し出して戻す技術のこと。表面の塗装を傷つけず、元の形に戻せるため修復歴が残らず、売却時の価値(リセールバリュー)も下がりません。施工もスピーディーで、早ければ数時間、遅くとも1週間以内には完了します。一方の板金塗装は、塗装面を削ってパテで埋め、再塗装する方法です。施工には約1ヶ月かかり、色の再現が難しい上、時間が経つにつれてパテが痩せ、修理跡が浮き出るなどのデメリットもあります。
雹害は無数のへこみが発生するため、「デントリペアは費用がかさむのでは」と不安を抱かれる方もいるでしょう。しかし、当社では“パネルの取替料金”を上限とし、保険修理の範囲内で対応するため、1パネルに複数のへこみがあっても同一金額で、保険協定もスムーズです。実際、これまでに2000件以上の実績があります。このように比較してみれば、デントリペアが雹害車にいかに適しているかは明らかです。海外ではこの専門技術を持つ職人が「ヘイルマン」として活躍しています。私たちも、「雹害=板金塗装」という認識がまだ根強いこの日本で、ヘイルマンとして、より優れた修理ソリューションを届けたいと考えています。
“職人集団”による圧倒的な対応スピード
当社の強みは、なんといってもスピード感です。雹が降ったその日、もしくは翌日には現地へ向かい、すぐに作業拠点を立ち上げて修理にとりかかります。デントリペアの場合、広いスペースは必要なく、屋根のある倉庫や工場があれば作業できる点もメリットの1つです。2024年は滋賀県にて、現場責任者として雹災害対策本部を運営し、3ヶ月で400台弱を修理。また、東京都でも月100台ペースで施工を行いました。長崎では、わずか2日間で70台を修理した実績もあります。現在は埼玉・群馬・東京・静岡・名古屋・長崎・滋賀と、全国7拠点体制を構築していますが、これはあくまで“現時点での拠点”。雹が降れば、全国どこへでも駆けつけます。一度雹が降ると、数千台から数十万台もの車が一気に被害を受けるため、迅速な対応力こそ最重要だというのが私の考えです。
こうしたスピード感を実現できているのは、完全な分業体制をとっているからです。実際の修理を担当する職人に加え、内装の専門職人、損害確認の専任者、洗車スタッフ、保険会社とのやりとりを担当する職員、営業、広報など。一人ひとりが自らの役割に集中することで、短期間・高品質の施工を実現しています。

高度な技術の修得と承継
もともと家業が車屋で、車は身近な存在でしたが、私自身は放射線技師の資格を取得し、医療の道を志していました。しかしある日、ゴルフボール大ほどの雹が降り、父の愛車であるGT-Rが甚大な被害を受けたのです。車は一瞬にしてボロボロになり、父にいたっては、事業の継続すら危ぶまれるほど憔悴しきっていました。そのとき、愛車が傷つくことが、いかに持ち主の心にもダメージを与えるかを痛感した私は、この業界へ入ることを決意。「1日でも早く傷ついた車を直し、持ち主の方の気持ちを楽にしてあげたい」。そんな想いを原動力に、ここまで歩んできました。
現在は、雹害車修理の専門職「ヘイルマン」を日本に根づかせるべく、スクール事業も展開しています。講習は全30回で100万円。卒業後は当社の現場で実践経験を積み、さらに技術を磨いていきます。入校にあたっては、私が希望者全員と各2時間ずつの面接を行い、人柄や生計状況などから多角的に判断した上で、合否を決定します。技術の修得には根気が必要なため、安易な動機では途中で挫折し、人生を無駄にするリスクもあるからです。実際に、応募は多数あるものの、現時点で入校に至ったのはわずか3名。「ヘイルマン」になる道は、それだけ狭き門なのです。私自身も、修行時代には何度も何度も「もう無理だ」「辞めたい」と思いました。しかしそれだけ高度で繊細な技術であることは間違いなく、優秀なヘイルマンの中には、月に1,500万円を稼ぐ人もいるほどです。
地域へ根を張り、世界中の雹を追いかける
雹は突発的に発生し、その地域で何万台もの車が一気に被害を受けるケースも珍しくありません。しかし日本では、自動車ディーラーの運営が地域ごとに分かれており、たとえ同じメーカー(トヨタやホンダ)であっても、県や市が変われば運営会社も異なります。そのため、隣県で実績を出していても、新たな地域では「どちらの会社ですか?」と、一から信頼を築く必要があるのが現状です。私たちは、こうした地域ごとの“壁”を越えるため、全国7カ所に拠点を設けるとともに、雹が降った地域にはその都度新たに拠点を立ち上げ、地元の方々に直接ご挨拶をしながら、その地域で修理を完結できる“地域密着型”の体制を整えています。この「あくまでお客様の目の届く場所で修理を行う」ことが、信頼関係の構築には重要なのです。そうしてお客様から「LHSにまかせたい」と思っていただける関係性を、全国に築いていけるよう注力しています。
一方、海外展開もすでに動き始めています。現在はブラジルへの支社設置を進めており、現地ではフロント業務に長けた職人を軸に、日本と同様のクオリティで対応できる体制を整備中です。なぜなら海外では、日本ならではの繊細な気配りや柔軟な対応力も、大きな強みになると考えているからです。世界中の雹を追いかけ、確かな技術と対応力で不安を取り除いていく――そのために私たちは、プロ意識と日本品質を兼ね備えたヘイルマン集団として、さらなる挑戦を続けていきます。
「雹(ひょう)=LHS」の未来へ
デントリペアのメリットは多くありますが、なかでも私自身が特に強く実感しているのは、「車の価値を落とさずに済む」という点です。実際に、新車センターで納車前の車が雹害に遭ったことがありました。しかし私たちの手がけるデントリペアであれば、修復歴が残らないため、修理後も無事、「新車」として納めることができたのです。大切な車の価値を損なわないという点は、ディーラー側にとっても、ユーザーにとっても、非常に大きな意義があると考えています。こうしたスマートで車にも優しい選択肢を広めていくためには、雹被車を修理する専門職「ヘイルマン」を、世の中の“当たり前”にしていくことが重要です。そこで現在は、絵本制作やYouTube配信、会社のテーマソング制作など、単なる技術紹介にとどまらず、親しみやすさも意識した発信活動を展開しています。万が一の備えとして、「ヘイルマン」や当社の存在を知っていただける機会を、これからも多く届けていきたいです。
雹害は、実際に体験しなければその存在を意識しにくいものです。しかし、日本ではここ数年のあいだに、大規模な雹災害が何度も発生しており、突然の被害に戸惑う方が少なくありません。そんなとき、修理の第一選択肢として、デントリペアが選ばれる社会。そして、「LHSがあるから大丈夫だ」と思っていただける未来。それが、私たちの目指す場所です。