INTERVIEW
グローバル連携で、ITビジネスの未来を拓く
株式会社ブライセン
代表取締役社長 藤木優
1986年の創業以来、幅広いITビジネスを展開し、柔軟な対応力を強みに成長を続けている株式会社ブライセン。幼い頃から世界の矛盾に疑問を抱いてきた代表取締役の藤木優さんは、「公正な世界を作りたい」という思いを会社経営や社会貢献活動に反映させ、複数のオフショア拠点を含む今のブライセングループを形作った。その背景と、今後のビジネス展開について、藤木代表に話を伺う。
対応力を武器とした5つのITビジネス
株式会社ブライセンでは、IT分野における5つのビジネスをメインとして展開しています。1つ目は流通ソリューション『B-Luck』。需要予測型の自動発注機能やデータ分析システムを備え、発注業務に関わる労務作業の負担を大幅に軽減する点が特徴です。食品スーパーやドラッグチェーン、ホームセンターなど、全国2,700以上の店舗で稼働しています。2つ目は物流ソリューション『COOOLa』。クラウド型の倉庫管理システムで、物流・倉庫業務の生産性を最大化し、またクラウドの利点を活かして、常に最新のニーズに対応し続けます。3つ目は、自動車の自動運転や製造業のDX化に必要なAIアノテーション。4つ目は、人事給与システムや商品管理パッケージなどの業務アプリケーションの受託開発。そして5つ目は、スマートフォンアプリやセンサー搭載機器など、組み込みシステムの受託開発です。
なかでも、流通ソリューション『B-Luck』と物流ソリューション『COOOLa』は、主力事業となっています。当社の特徴は、これらのSaaS(Software as a Service)をお客様ごとにカスタマイズし、各企業に最適なモデルを提供している点です。このような柔軟な対応ができる企業は競合には少なく、当社の最大の強みと言えます。
社会貢献活動から生まれたオフショア開発
当社の開発力を支えているのが、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、韓国などのオフショア拠点です。オフショア開発の歴史は、ベトナムでの支援活動から始まりました。1997年に出会った養護施設「子供の家」の経営者とのつながりから、ストリートチルドレンの支援活動をスタートしたのです。私が小学生の頃、ベトナム戦争があったために、同地には個人的な思い入れもありました。そこから、施設の出身者達を日本に呼び寄せて語学とITを学ばせるようになり、2009年には、彼らが学びを活かして就業できる場所を作りたいという思いから「ブライセンベトナム」を設立。これが当社のオフショア開発の基盤となりました。2016年には、ミャンマーで「Dream Train」と呼ばれる施設と出会い、運営元である日本発祥の国際医療NGO『ジャパンハート』とのご縁を経て支援活動を開始。カンボジアでの病院建設支援として1,000万円を寄付し、紺綬褒章を授与されたこともあります。
私にとって、社会貢献活動はビジネスとは別枠で重要なものです。支援活動を始めた当初は、事業の計画は頭にありませんでしたが、結果的にビジネスに繋がったのは、IT分野の可能性と現地の人々のポテンシャルが合致したためでしょう。また、私は短期的な利益よりも長期的な信頼関係を大切にしています。そのため、運営が赤字続きでも投資として増員を続け、「ブライセンベトナム」は、2018年には200人規模にまで拡大。グループに欠かせない柱となっています。
挑戦と継続の積み重ねで花は咲く
当社が海外に目を向け始めたのは2000年代初頭です。当初は、フランスやアメリカのソフトを日本で販売していました。ロシアのデータベースシステムを日本市場に導入した際には、ガラケーのプラットフォームとして採用され、非常に期待が高まりましたが、直後にAndroidが台頭し、想定以上の成果は得られませんでした。また、2001年頃には「デジタルトランクサービス」という、ネット上でデータや写真を預かるサービスを展開。SNSの先駆けとなる写真共有機能や、写真用品メーカーへのデータ送信機能などを備え、会員も10万人ほど獲得しましたが、当時の高額な通信費やストレージコストにより継続を断念しました。思うような成果が得られない時期が続きましたが、経験は新たな挑戦へのきっかけとなり、製品を市場に流すタイミングの重要性も学ぶことができました。
その後、2007年にローンチした『B-Luck』も、少し早すぎる技術だったかもしれませんが、私は「予測型自動発注は必ずニーズが高まる」と確信していました。そしてその予感は的中し、『B-Luck』は現在、小売業だけでなく製造業でも広く活用されています。これは、当社が仮説をもとに挑戦し、継続していく姿勢を貫いた結果だと私は捉えます。特に、日本のIT領域にはまだまだ大きな可能性が眠っていますから、着実に前進する姿勢を、今後も大切にしていきたいと考えています。
日々を懸命に生きる人に光を
私が仕事で最も重視しているのは「嘘をつかない」ことです。どんなに小さな嘘でも、それは真実を捻じ曲げ、信頼を失う原因になります。私たちには誰しも「良く見せたい」という欲求があるため、嘘をつかないことはなかなか難しいことです。たとえば、進行状況を確認されると、本当はまだ完成していないのに「できている」と言ってしまうことがある。このような小さな嘘を避けるためには、「日々を怠けない」ことが重要です。だからこそ私は、「できていない」と認め、懸命に取り組む人を心から応援します。そういう人は、必ず成長していくからです。しかし、少しできていると考えて怠ける人は、必ず後でつまずきます。大切なのは、毎日を全力で生きること。そんな風に自走できる社員を増やしていくことが、当社の今後の展望でもあります。私はこれまで、社員の失敗には寛容でありつつも、同時に厳しさを持ち続けてきました。しかし、今後は厳しさと寛容さのバランスをとることで、社員1人ひとりが主体性を発揮できる風土を醸成していくことが必要だと感じています。
また、会社経営においては、公正な職場環境を保つことも重要です。世間では、目立つ人や力のある人ばかりにスポットライトが当たることが多いですが、理想的なのは、弱い立場の人々に寄り添い、陰で努力している人々にこそ光を当てる社会ではないでしょうか。私はブライセンという組織でその思いを実践し、社会に対してメッセージを発信していきたいと思っています。
グローバル基準とローカルニーズの最適化戦略
私達は「グローバル」を「標準化」、「ローカル」を「特殊化」と捉えています。そして、基盤となる技術やソフトウェアを活用することで「標準化」を満たし、顧客ごとに適したカスタマイズを行うことで「特殊化」を実現しています。グローバル基準を満たしたものを、1件1件ローカル化していく。このアプローチこそが、まさに私たちの強みであり、多くのクライアントから高いニーズが寄せられている部分です。現在の顧客層は国内に留まっていますが、今後はマーケットをベトナムやカンボジア、ラオスなど東南アジア全土にも拡大していきたいと考えています。欧米をターゲットにする場合、中国や韓国などの競合と戦う必要があり、ハードルが高くなりますが、その点、東南アジアは比較的親日な傾向が強く、成長の余地が大きいと感じています。
ストック型ビジネスモデルの強化とサービス拡大の未来
従来の受託開発は、収益が社員数に依存していましたが、当社の『COOOLa』や『B-Luck』といったSaaSサービスは、ストック型ビジネスモデルで毎年利益が積み上がりやすい特徴があります。また、最近では『COOOLa』の顧客から『B-Luck』に対する需要が生まれるなど、サービス同士が相互に関連し合うケースも増加しているため、これら2つのサービスを繋ぐ基幹システムも開発しました。今後はここにCRM(顧客管理)やMA(マーケティング支援)、HR(人材管理)などの新たなシステムを導入し、枝葉のようにサービスを拡大することで、より収益性の高いストック型ビジネスを構築し、当社の主要事業として確立していきたいと考えています。