INTERVIEW
見えないインフラを、誰が見ても美しく。
有限会社スキル産業
代表取締役 尾林亮太
防食・防水・耐震補強を通じて、公共インフラの現場に向き合い続けてきた有限会社スキル産業。「大きな注目を浴びることはないが、生活に欠かせない重要な仕事」と語る代表の尾林亮太さんは、10代からこの業界に入り、叩き上げで確かな技術力を体得してきた。見た目の美しさにまでこだわる仕事観の裏側には、そんな職人時代の原体験があるという。今も現場に立つ尾林さんに、仕事への向き合い方や経営に込めた思いを聞いた。
公共インフラを支えるという仕事
私たちスキル産業は、群馬県藤岡市を拠点に、防食・防水工事、耐震補強工事などを手がけています。なかでも浄水場関係の施設に関わるインフラ整備が主な業務で、浄水場の新築工事から経年劣化に伴う改修・補修工事まで、幅広く対応しています。私たちが関わるのは、どれも人の生活に直結する施設です。たとえば、水を安全に供給するための浄水場があるからこそ、水道をひねればきれいなお水が出てくる。丈夫な橋梁があるからこそ、隔てられた土地への移動や物資の輸送ができる。こうした公共インフラは、長い年月にわたって使われ続けるもので、定期的な補修や改修が欠かせません。私たちの役目は、そうした施設が長期にわたって安全に機能し続けるよう、裏側から支えることです。
「防食工事」と聞いて、すぐにイメージできる方はあまり多くないと思います。防食工事とは、金属やコンクリート部分が硫化水素や酸性・アルカリ性の化学薬品によって腐食するのを防ぐための工事です。浄水場や下水処理場の水槽はコンクリートでできているため、そのまま使用すると水分を吸い、塩素によって腐食してしまいます。そのため、左官やローラーで水槽の内側に専用の材料を使って膜をつくり、防水や防食を行っているのです。この作業がなくては、構造物の劣化が進み、水の安全性にも影響が出かねません。あまり知られてはいませんが、欠かすことのできない重要な工程なのです。
信頼と差別化の決め手は「見た目の美しさ」
私たちの仕事では、「漏れない」「腐食しない」といった性能は当然のことです。その大前提の上で、どうすれば他社と差別化ができるのか。その答えが「仕上がりの完成度」でした。もともと先代は昔ながらの職人気質で、少しでも粗があれば見直しに1~2週間はかけろというような人でした。当時は、その根底を理解しきれない部分もありましたが、今では「見た目に妥協しない仕事こそが、信頼につながる」ことを肌で感じています。たとえば浄水場の防食工事は、まず左官で下地を整え、その上からローラーで仕上げを行います。下地の色は白、仕上げは青が基本です。もし白が少しでも透けていれば、それは青の塗布量が足りていないということになりますし、厚く塗りすぎれば重みで垂れてしまいます。筋が出る、色ムラが出る、はみ出す。そうした細かな違いは、素人の方が見ても分かるものです。だからこそ私たちは逐一見直しながら、徹底して見た目の美しさにこだわっています。
一方で、他社の現場を手伝った際、仕上がりを見て絶句したこともあります。そのとき「美しさにこだわる」という日々の姿勢は間違っていなかったことを確信しました。実際に、監督員の方が確認に立ち会われた際には、「ここまで綺麗な仕上がりは初めて見た」と声をかけていただいたり、「御社にお願いしたい」と直々にご依頼いただいたりすることもあります。
職人ファーストの実践
私は会社経営において「職人ファースト」という考え方を大切にしています。それは、私自身が職人時代に感じてきた葛藤があるからです。私は17歳の頃からこの業界に入りましたが、当時を振り返ると、収入は少なく、手当も十分とは言えず、将来に不安を抱えながら仕事をしていた時期が長くありました。どんなに仕事が好きでも、安心して生活できなければ長く続けることはできない。だからこそ、代表として会社を引き継ぐ立場になったとき、まず整えたいと思ったのが、働く環境でした。待遇面については、給与や手当の見直しに加え、退職金制度を2つ導入するなど、将来に備える仕組みづくりや資格取得の支援にも取り組んできました。安全面では、フルハーネス型の安全帯や防毒マスクなど、現場で必要な装備は会社からすべて支給しています。かつて装備は個人負担が当たり前だったのですが、命や健康に関わる部分については、会社が責任を持つべきだというのが私の考えです。
人間関係についても、上下関係を必要以上に強調することはしていません。私自身も現場に出て従業員と一緒に作業をしますし、言うべきことはその場で伝え、後には引きずらない。そうしたフラットな関係性も働きやすい職場の一要素ではないでしょうか。現場の主役として力を発揮するのはあくまで職人です。代表者としての私の仕事は、皆が心地よく仕事をできるように支えることだと考えています。
日本の現場仕事を、世界の視点で捉える
水を安全に使い続けること、インフラを長く維持することは、どの国や地域でも共通の課題です。私たちが日々取り組んでいる防食工事や耐震補強も、世界のどこでも必要とされる仕事だと思っています。私たちに限らず日本の職人の仕事は、性能を満たすだけでなく、精巧さや均一性にまで目を向けるという特徴があります。その姿勢は、宮大工の仕事などにも通じる、日本ならではの技術文化と言えるでしょう。現場で後進に指導をする中でも、こうした日本の仕事の在り方は、もっと評価されていいのではないかと感じる場面が多くあります。
一方で、建設業界に身を置く者として、SDGsを意識し、できるだけ環境への配慮も心がけています。私たちが大切にしている「見た目にこだわる仕事」も、環境への配慮と無関係ではありません。防食工事では、現場の面積に応じて使用する材料の量が設計段階で決められています。つまり、施工後に材料の過不足が一切出ない状態が理想なのですが、実際の現場では、材料が何十缶も余ってしまったり、逆に足りなくなったりすることも多く、実現するのは簡単ではありません。その点、当社では、塗布のペースや適切な量の感覚が職人の中に染みついているため、毎回きっちりと材料を使い切る施工ができています。このように無駄を出さず仕上げることは、”見た目の美しさ”という品質と、”廃棄物の削減”という環境配慮の両立につながっていると考えています。
「当たり前」を支え続けるために
今後の展望として、会社を何十億規模に拡大したいといった野望は、正直あまりありません。仕事が増えたり、人が増えたりすれば、その流れにはきちんと対応していくつもりですが、無理をして規模を広げ、その結果、現場や人を疎かにしてしまうような形にはしたくないというのが、私の率直な気持ちです。私が大切にしたいのは、現場で働く人たちが安定した生活を送り、安心して仕事を続けられること。そして、先代から受け継いだこの会社を、私自身も無理のない形で運営し続けていくこと。そのためには、派手な成長よりも、地に足のついた経営を続けることのほうが重要だと考えています。
防食工事や耐震補強といった仕事は、完成した瞬間に注目されることはほとんどありません。しかし、水道の蛇口をひねれば水が出る。いつでも安心して橋を渡れる。そうした皆さんの「当たり前」が何事もなく続いていくこと自体が、私たちの仕事の成果だと捉えています。「誰かの暮らしを確実に支えている」──その実感があるからこそ、私も社員も、ここまで歩み続けてこられました。この記事を通じて、私たちの仕事を少しでも身近に感じていただけたなら幸いです。私たちはこれからも現場に向き合い、一つひとつの仕事を丁寧に積み重ねながら、社会の「当たり前」を支え続けていきます。