INTERVIEW
私達と地球、双方の豊かさを叶える
株式会社Transire Pontam
代表取締役 社長執行役員 五十嵐拓巳
IT事業からカーボンニュートラル事業に至るまで、幅広いビジネスで世界に貢献する株式会社Transire Pontam。「IT×環境保全」というコンセプトには「人類の英知であるITの力をもって地球に貢献したい」という想いが込められている。幼い頃から自然環境や動物に深い関心があったという代表取締役の五十嵐拓巳さんに、最も注力しているというアパレル焼却阻止活動や、今の時代をどう生きるべきか、そのヒントを語って頂いた。
目をつけたのは、大量廃棄される衣類品の活用
事業のメインコンセプトは「IT×環境保全」です。IT部門ではホームページの制作やECサイトの運用・コンサルティングなどを手掛け、環境保全部門ではアパレルの焼却阻止を行ってきました。アパレル業界において発生する衣料廃棄物分は膨大で、その焼却処分を行うために非常に多くの二酸化炭素が排出されているというのが現状です。よって弊社では、アパレル企業で回収した最終処分品をバングラデシュの工場で繊維まで戻し、掃除道具の材料として日本に再輸入するというリサイクル活動を行っているのです。そこからさらに「IT×環境保全」を突き詰めたものが、会社の福利厚生サービス「OSAGARI」。内容はその名の通り、不要になった洋服を「お下がり」として社内で他の人へ譲るというものです。焼却処分される洋服の中でもかなりのウェイトを占めているのが、子供のサイズアウトした服であるという点にヒントを得ました。
しかしその実状は、フリマアプリで売買するほどではないけれど、十分着られるというレベルの洋服が圧倒的に多いということ。また、お子様のいるご家庭ならば「子供の洋服代がかさむ」というお悩みはよく聞かれることでもあるでしょう。ならばリサイクルに回すのではなく、洋服のまま譲渡できればいいのではないかと考えました。あえて福利厚生サービスとしたのは、社内の顔見知りの方に譲ることで、横の繋がりの構築にも貢献できるのではと思ったためです。
自然と動物を愛する少年が、IT系社長になった理由
そもそも私は、幼い頃から自然豊かな国へ旅行する機会が多く、将来の夢を聞かれれば「ドルフィントレーナー」と即答するくらい動物も自然も大好きな子どもでした。それから一転、「社長になりたい」と明確に思うようになったのは、13歳のときに見た海外ドキュメンタリーがきっかけです。それは母子家庭の貧しい環境下でお母さんがアルツハイマーになってしまい、病院や介護施設に入れられる余裕がないために娘さんが在宅介護を決意するという内容でした。そして物語はだんだんと悲劇的になり、当初は「私の人生をかけて大好きなお母さんの面倒をみます」と意気込んでいた娘さんも、10年が経つころにはすっかり憔悴。とうとうお母さんを殺害してしまうというショッキングな結末を迎えます。私の人生を180度変えたのは、その後に続いたコメンテーターの一言でした。「『お母さんが病気になった』、それだけの出来事がこんなに悲惨な”事件”になってしまった理由は、ただお金がなかったからです」。私はそのとき、お金=幸せではないけれど、お金があれば回避できる不幸がこの世にはたくさんあることを悟ったのです。「それなら僕は、お金持ちになろう。社長になろう」。今思えば安直な考えでしたが、宣言通り私は社長になりました。
そして数あるビジネスの中からITを選んだ理由、それはIT事業ならば在庫や売れ残り、利益の取りこぼしが発生しづらいと考えたためでした。また、ITインフラの豊かさは人の幸福度に直結していると感じたことも理由の一つです。江戸時代と現代を比べれば、やはり皆さんが豊かだと感じるのは現代だと思います。その理由は、ITが私達の暮らしを各段に便利にしてくれているからではないでしょうか。しかし利便性を追求した結果、豊かな自然環境を破壊してしまったのが今のこの世界です。ならば私は今を生きるITエンジニアとして、人の心の豊かさと地球の豊かさ、どちらも大切にしていきたい。「IT×環境保全」という形で二つの事業を進行している原点は、その想いがあるからに他なりません。
副業を通じてリスクを恐れない経営者目線を養う
弊社の社訓は「The First Penguin~先駆者であれ~」。南極大陸では、ペンギンの群れが崖から海を眺めてるようなシーンがよく見られます。そこから最初に海へ飛び込んだペンギンのことを「ファーストペンギン」と呼ぶのですが、これは天敵がいるかもしれない海へ、リスクを恐れず飛び込んでいく勇気を称えたものです。ビジネス界では、誰もやったことのない事業を最初に切り拓いた人間に対して「ファーストペンギン」と呼称します。私達は現在「IT×環境保全」というコンセプトで世界を変えていこうと日々奮闘していますが、常に意識しているのはまだ誰もやったことがない事業にも果敢にチャレンジしていくファーストペンギンの精神なのです。最初に飛び込んだペンギンは死に至ってしまう可能性もありますが、成功すれば後から飛び込んだペンギン達よりも多くの美味しい魚を得ることができるかもしれない。何よりも、このようなリスクを恐れずに挑戦していく者が群れの中には必ず必要だと思うのです。そのような考えから、当社ではファーストペンギンのような人材を育成していきたいと常に考えてきました。
人材育成の一環として行っているのが、「社員への副業斡旋」という少し風変わりな制度です。内容は物販やアフィリエイトなど、好きなことをしてもらって構いません。なぜ副業を推奨するのか? それは会社員として働いているだけでは、きっと時代が変わったときに取り残されてしまうという危惧が私の中にあるからです。コロナ禍においても、日本の働き方はずいぶんと変わり、廃業に追い込まれてしまった会社もたくさんありました。今後同じような事態が起きた際、当社が生き残れるという保証はどこにもありません。しかしそのときに、社員一人ひとりに自身で事業を作る力があれば、たとえ会社の力がなくとも人生は立て直していけるでしょう。常日頃から副業を行うことで、有事の際に必要な事業の創造力や経営者目線を養ってほしいと思うからです。さらには当社の業務を遂行する際にも経営者目線を持っていただくことで、双方にとって有益な効果が得られると考えてきました。そんな思いから副業の斡旋を行っています。
動物・地球愛護に国を巻き込む
今後の新たな事業として直近で検討しているのは、保護猫カフェの運営です。日本の都市圏でよく見かける動物といえば猫だと思いますが、日本は残念なことに保健所の衛生面が優れているとは言えない環境にあります。さらに引き取り手のない猫は最終的に殺処分されてしまう。先進国において、動物の殺処分を行っている国は非常に少ないにもかかわらず、それが現実なのです。したがって、保護猫カフェを運営することで一匹でも多くの猫を救い、適切な環境下で過ごさせてあげたいと事業を模索してきました。
また、いずれ注力していきたいと考えているのが海洋ボランティアです。とは言っても、ただ浜辺のゴミを拾うといった内容ではなく、海面に浮かんだゴミを回収するバケツのような装置を活用し、各自治体と連携しながら効率的な清掃活動に注力していきたいと考えているところです。しかし、いずれの活動も問題となってくるのはコスト面でしょう。すべての資金を民間で賄うには無理があるのです。だからこそ、地球環境や動植物たちを守る活動により多くの予算を割いてもらえるよう国側へアピールすること、それが私達がまず起こすべきアクションなのかもしれません。
「洋服=ゴミじゃない」という意識づけを目指して
国の意識を変えるためには、まず多くの国民の意識・常識を変える必要があります。そこで私は、当社の福利厚生生サービス「OSAGARI」を日本で最も巨大な企業である公務員団体で普及させたいと考えてきました。全国の公務員の皆さんが子供の洋服をお下がりとして譲り合うことが当たり前になれば、「洋服=再利用するもの」という意識が芽生え、常識として徐々に定着していくでしょう。そして公務員団体における常識が変われば、日本の制度自体も見直され、それは地球環境保護への大きな第一歩になると期待しています。
「カーボンニュートラル」と聞くと地球規模の問題であって、私達一人ひとりができることなどないような気になってしまうでしょう。しかし実は、家庭からの二酸化炭素排出量は、国内の総量に対して大きな割合を占めています。したがって各ご家庭が今捨ててしまっている洋服や帽子、靴などをゴミとして出さないようにするだけでも、非常に大きな影響をもたらします。さらに当社がプラントを新設し、洋服を繊維へ戻す過程で発生する熱や、どうしても再利用できない洋服を焼却処分する際に発生する熱をエネルギーとして有効活用できれば、アパレルを軸とした地球保全事業の非常に良い循環が生まれると考えています。
SDGsの根幹は、世界へ愛を広げていくこと
私がバングラデシュにてリサイクル工場を設けたのは、バングラデシュでユニフォーム製造を行っている知人がいたことがきっかけでした。その方はSDGsの目標の中で「貧困をなくそう」という項目に注目し、現在も活動を続けています。バングラデシュは国民の平均月収が約8,000円ほどで、アジアの中でも最貧困と言われている国です。つまり私が雇用を生み出すことで、バングラデシュの方々は平均収入以上の仕事が得られるうえに、私達も人件費を抑えられるというお互いにWin-Winな形で、SDGsの目標を達成できるということになります。私はSDGsの中でも環境保全の方へ重きを置いていますが、無理のない形で他の項目も達成できるのならそれに尽きると考え、国内ではなく、あえてバングラデシュに拠点を構えました。
これはほんの一例ですが、全ての人々が自分だけでなく周りも豊かにすることを考えられるような社会になれば、世界は必ず良い方向へ変わっていくと信じています。