INTERVIEW

災害、医療…困りごとを支える技術力の結晶

TMS株式会社

代表取締役 小林裕信

企業への技術支援やサポート、試作・開発支援などを行っているTMS株式会社。こうした幅広いサポート事業を行えるのは、大手電機メーカーで定年まで技術者として活躍した代表取締役 小林裕信さんの圧倒的な知識量・経験値があるからだ。安定した会社員生活をあえて捨て、真に役立つ製品と新しい技術を追及し続ける小林代表に、そのモチベーションと、日本のインフラ課題に応える技術の数々について伺った。

「技術をもって困りごとを解決したい」

私はもともと大手電機メーカーである富士電機株式会社にて、放射線測定器の開発・研究等に従事し、定年まで勤め上げました。技術大国日本の大手企業において、技術畑一筋で学ぶことができた経験は今にも大変活かされています。また、勤務最後の年には静岡大学工学部電子工学研究所の客員教授も拝命しました。定年後は嘱託社員としての生活も選ぶことはできたのですが、「困っている顧客のために自身が培ってきた技術力を活かし、従来にない製品を開発したい」という思いが強く、TMS株式会社の設立に至った次第です。

当社では、企業様向けのさまざまな支援事業を行っていますが、特に主だった事業は、可搬式X線検査システム、および水電池を活用した水位計システム・非常用設備等の開発です。

メイド・イン・ジャパンの可搬式X線検査システム

X線は、非破壊検査(機械部品や構造物などの内部を調べる際、X線で透過撮影することによって、対象物を破壊することなく欠陥や劣化を検出できる検査のこと)や空港等の手荷物検査、それから医療分野のレントゲン検査で主に利用されています。ただ、これらのX線装置は据え置き型が主流で、基本的に移動することはできません。この点を改良できないかと考え、私達が開発したのが、可搬式X線検査システムです。発端は、2020年の東京オリンピックが決定した際、「持ち運び可能なX線手荷物検査装置を作れば、警備に貢献できるのではないか」という話が上がったことでした。そして前職である富士電機株式会社在任中に可搬式X線装置の第一作目を開発しました。

TMS株式会社を立ち上げてから、自社開発品として装置を組立しなくとも手軽に使用できるように、デリバリー用のBOXを活用して「デリバリー式X線検査装置」(発生器と検出器を取り出しても使用可能な2WAY式 実用新案取得済)を開発しました。こちらは誰でもどこにでも持ち運びができて、バッテリーで使用可能な装置となっています。装置を移動させることによってどこでも検査が可能となり、たとえば爆発物のような危険性のあるものをわざわざ移動させる必要がないという点が最大のメリットです。インフラ点検作業に導入して頂ければ、時間やコストの削減にも繋がるでしょう。従来の可搬式X線検査システムは海外製のものが圧倒的に多く、私としてはお客様の細やかなニーズにも対応できるメイド・イン・ジャパンの製品を使いたいという思いがありました。日本の安心・安全を守るためには、やはり日本の技術を用いて、日本人の考え方に合わせた製品作りをすることが最重要だと考えているためです。それはやはり、前職で安全を考慮した技術について深く学ばせて頂いた影響が大きいかと思います。

水を電源として活用する「水電池」

X線と異なり、「水電池」というのは、皆さんが聞き慣れない単語だと思います。日本は水による災害が多いため、その憎き「水」をあえて電源として活用できないかと考えたことが始まりでした。この水電池を水検出センサーに用れば、電源を必要としない上に、水位警報としての機能も果たすという使い方も可能です。

また、震災などの災害時、発電機が電気を供給するまでにはタイムラグがあります。そして発電機は基本的に室内には置けません。しかし10cm角程度の水電池の電力を利用すると、おおよそ72時間は非常灯が使用可能です。現在はインテリアとして使える木箱型の水電池式表示灯も開発し、箱の中に非常食や飲料水、簡易トイレ等を収納しました。非常用持ち出し袋をイメージして作りましたが、備蓄しておくのではなく、普段からインテリアとして表に出しておくことで、有事の際にすぐ使えることを狙いとしています。さらに水電池の電力をうまく活用できれば、皆さんのニーズが最も高いスマートフォンの充電器にも応用できるはずです。今後はそういった開発も視野に入れています。

仲間と共に、災害に備える設備を生み出す

2011年に起きた東北沖地震にて、「原子力発電所の爆発は起きない」という神話は崩れました。当時、富士電機にて放射線計測機器の開発側にいた私は、国民の被ばくや食の流通に関する懸念が嵐のように巻き起こったあの日々を今も鮮明に覚えています。その後、私は新たな災害用機器の開発を行うことになるのですが、「災害発生前に準備できていれば…」という悔恨の念は常にあり、それは先日の能登地震でも感じたことでした。「私の残り少ない人生を、次世代のために!」。私が現在、できる限りの知恵と技術を尽くし、災害の未然防止機器、災害発生後のライフライン確保など、災害に関する事業をさまざまに展開している理由は、そんな思いに起因しているのだと思います。

私は会社員時代から「仕事は断らない。前向きに検討する」ということを信念として取り組んできました。お客様からのご要望であれば、不可能なことであっても力を尽くすのが流儀だと考えているためです。その思いは経営をする立場になった今も変わりません。当社は中小企業であるがゆえに、できることには限りがありますが、前職の元メンバー達がそれぞれに立ちあげた専門会社を巻き込んで「チームKプロジェクト」を編成しています。つまり、各社が得意分野に尽力し、協業することで1つの製品を作り上げているのです。たとえ立派な信念があっても、共に戦ってくれる仲間がいなければどうにもならないこともあるでしょう。そういった意味で、当社のみが孤立奮闘するのではなく、皆で考え、協力していける環境にあることは、非常に恵まれていると感じています。

国内外で広がる技術の輪

今後の展望についてはさまざまありますが、私の仕事の集大成として、可搬式レントゲン装置の開発、および医療現場への導入はなんとか実現したいと考えています。高齢化社会にともなって在宅医療が推進されているものの、実際に医師が持ち運べるのは聴診器や血圧計くらいのもので、詳細な検査まではなかなかできないのが現状でしょう。すると、骨折している高齢者などは、病院での検査を余儀なくされてしまうのです。まずは装置の開発と、その装置を使いこなせる医療従事者をどのように確保するのか。課題は山積みですが、当社の取り組みに賛同してくださる医療機関や、開発に力を貸してくださるメーカー様達と共に1つ1つクリアしていけば、道は拓けると信じています。

また、可搬型X線装置のODA納入の経験からフィリピンの技術者に、現地の環境・状況に合わせた水災害検知システムの開発も進めています。発展途上国のようにインフラが不安定な環境で災害が起きてしまうと、悲惨な状況を招きかねません。よって、技術補助や機器の提供など、できる限りのサポートをしたい所存です。さらに今後は大学とも連携し、海外から日本へ学びにくる留学生への技術提供を行うことで、彼ら自身が母国の災害に対して何か貢献をできるよう、間接的にでも力になりたいと考えています。

若い方々へのメッセージ

今の若い方々を見ていると、我々の若い時代より輪をかけて、会社の締め付けが厳しいように思います。今、会社員生活を送っている方の中でも「新しいことを始めたいな」と思っている方は多いのではないでしょうか。

私はこういった皆さんの気概に対してエールを送りたいと思います。ぜひ自分で会社を立ちあげ、社長になって、自分の思いを実現させてください。会社運営することは非常に骨の折れることですが、若くして社長になれば、時間を味方にできます。今はAI化が急速に進んでいるがゆえに、1からものを考え、作り上げられる技術者や職人のような気質を持つ人が非常に少なくなりました。よって、日本の技術を知っている若い人たちには、特に大きな志を持って社会へ挑んでほしいものです。そして「新しい技術に取り組みたいけれど、1人ではなかなか難しい」と考えている方がいれば、ぜひ当社を覗いて頂きたいと思います。

TMS株式会社

代表取締役

大手電機メーカー「富士電機株式会社」にて、放射線計測機器の開発などに長年従事し、定年まで勤務。退職後、2020年にTMS株式会社を設立。自身の経験や技術力を活かした可搬式X線検査システムや、水電池を活用した防災システム製品などの開発に取り組んでいる。