INTERVIEW

安全と信頼を組み上げる足場工事

株式会社新翔

代表取締役 新保祐樹

足場工事を通じて、数多くの建設現場を支えてきた株式会社新翔。営業活動に頼らず、施工品質への信頼を積み重ねることで、地域に根ざした安定の受注基盤を築いてきた。その仕組みを一代で形にしてきた新保代表は、もともと音楽の道を志していたという異色の経歴の持ち主。大転身の末に会社を設立し、現在は国籍を超えた人材育成や社員のための環境づくりにも力を注ぐ新保代表に、仕事への向き合い方と会社の未来像を聞いた。

建築づくりの前提を担う

当社は2012年に設立し、横浜を拠点に関東圏内の足場工事を手がけています。関わるのは主に住宅の補修・新築工事、ビルやマンション、工場、テナントの点検・改修工事などです。足場がなければ建物は建てられず、修繕も行えません。その意味で足場工事は、「建物づくりの前提」を支える仕事だといえます。一口に足場と言っても、建物は低層なのか中高層なのか、敷地に十分な設置スペースがあるのかなど、現場ごとに条件はさまざまで、こうした状況や工事の目的に応じて、最適な足場を組み上げることが求められます。その上で、安全で、作業する方々が使いやすく、コストパフォーマンスの良い足場を組むこと。それが当社の使命です。

最近では、イベント設備工事にも力を入れ始めています。コンサートや撮影現場など、エンターテインメントの世界でも足場は欠かせません。これまで培ってきた施工技術を活かしながら、新たな分野へと事業の幅を広げています。

音楽の道から鳶職人へ

学生時代の私は、建設業とはまったく違う世界を目指していました。高校時代からバンド活動に打ち込み、将来の夢はミュージシャンとして活躍すること。その延長で音楽大学の舞台スタッフ科に進学し、音響や照明、大道具など裏方の技術を学んでいました。しかし、在学中にメンバーとのトラブルでバンドを脱退。気持ちが折れ、生活も荒れ、気づけば多額の借金を抱えていました。「このままではいけない」と、返済のために始めたのが足場の仕事です。仕事に専念するため一度休学し、学費を貯め、そこから復学して卒業しました。最初はあくまで生活のための仕事でしたが、体を動かした後の爽快感や、チームで現場をやり切る達成感など、だんだんとこの職に魅力を感じるようになっていきました。

その後、足場工事を手がける建設会社で経験を積み、25歳で個人事業主として独立。そこから5年間はがむしゃらに働き、30歳で法人化して、株式会社新翔を設立しました。もちろん大変なこともありましたが、お客様からの「ありがとう」が原動力となり、もっと多くのお客様と関わりたいという気持ちで会社を経営する日々でした。すると最初は一人だった会社も、少しずつ仲間が増えていき、現在では約50人の組織へと成長しています。借金返済から始まった足場の仕事は、今では私の人生そのものになりました。

職人が安心して働ける環境を

建設業界では個人事業主として働くことが一般的ですが、私は昔からこの業界の慣習に疑問を抱いていました。鳶職人は体が資本の仕事であり、年齢とともに現場に立ち続けることが難しくなるケースも多くあります。にもかかわらず、個人事業主という働き方では将来の保証は不安定です。だからこそ当社では、皆が安心して働き続けられるよう、社員雇用を基本とした組織づくりを重視してきました。

また、現場作業だけでなく、年齢を重ねた後も携われる事務や図面作成などの職域を整え、社員として長く働ける環境整備にも取り組んでいます。最近では、こうした社員前提の雇用形態や将来も見据えた制度、安定した収入面などに魅力を感じて入社を決めてくれる社員も増えています。

さらに、チームワークを高めるため、社内のコミュニケーションも大切にしています。強い言葉遣いは避け、相手の立場に寄り添って話をすること。日常的に声をかけ、努力を認め、ときには趣味や近況についても話すことで、信頼関係を築くことを意識しています。そのおかげなのか、当社の現場は常に明るく前向きな雰囲気です。社員同士の交流の場として、毎年スノーボードを中心とした社員旅行も実施しています。自由参加ながら、多くの社員が集まって結束を深める良い機会になっており、私自身も嬉しく感じています。

地域密着モデルで建物の循環に寄り添う

当社は創業以来、営業活動はほとんど行わずにここまで歩んできました。一つひとつの現場に誠実に向き合い、その施工品質を評価していただいたお客様からの紹介によって、受注が自然と広がってきたのです。こうした紹介の連鎖に加え、現在の事業を支えているのが、横浜エリアを中心とした地域密着型の受注構造です。なかでも、相鉄グループのリフォーム関連案件を数多く手がけていることが、当社の大きな特徴です。相鉄グループは、横浜を中心に鉄道・不動産事業を展開する地域の中核企業で、沿線には多くの住宅や建物を保有しています。その改修工事に伴う足場工事を継続的に担っていることが、当社の安定した受注基盤につながっています。

かつて新築時に携わった建物が、10年、15年と時を経てリフォームが必要になると、その足場工事を再び私たちが担当する。こうした建物のライフサイクルに寄り添う形で仕事が循環していることが、大きな強みになっています。会社が各地へのアクセスに便利な横浜に位置していることもあり、関東圏内では迅速かつ柔軟な対応が可能です。一方で、足場資材の運搬が難しい遠方の案件は、無理に自社で受注せず、信頼できる現地業者をご紹介するなど、お客様にとって無理のないコストで品質が担保できる方法を優先しています。

国境を超える仲間たち

約10年前から外国人技能実習生の受け入れを始めました。当初は人手不足への対応が目的でしたが、今では現場を支える欠かせない存在です。特に、先方の要望通りに柔軟に対応する姿勢などは、お客様からも非常に評価していただいており、職長を任せている外国人社員もいます。実習生の多くは、日本に来るために多額の借金を背負うと聞きます。来日後は、それを返済しながら、「母国の家族に家を建ててあげたい」と懸命に働くのです。その並々ならぬ覚悟こそが、彼らの真面目さと責任感に結びついているのだと思います。

日本で運転免許を取得し、車を購入するまでに自立した外国人スタッフもいます。さらに彼は、組合の方が帰る際、自然に「送っていきますよ」と声をかけていました。言葉も文化もわからない環境で、ここまで自然に人を思いやれるようになるまでに、どれほどの努力があったのか。そう考え、胸が熱くなったことを覚えています。もちろん、実習生の姿勢にも個人差はあります。しかし、それは日本人でも同じことです。大切なのは、国籍で線を引くのではなく、まずは仲間としてフラットに受け入れて、一人ひとりと向き合っていくことだと考えています。

100年企業を見据えた挑戦

技能実習生とのつながりを活かし、足場資材をベトナムへ展開することも構想中です。もし現地で足場工事ができるようになれば、外国人スタッフたちの母国に仕事という形で恩返しができるのではないかと考えています。そしてもう一つ大切にしたいのが、地域との関わりです。いずれは会社の敷地に地元の方々を招き、足場資材を活用したイベントや祭りのような場をつくりたいと考えています。日々の工事を通じて支えていただいている地域の皆さんに、別の形でも貢献していきたいという思いです。

今後の目標ですが、会社を設立した以上、目指すのは「100年企業」です。そのためには、人材を育て、仕事の幅を広げ、必要な投資を惜しまないことが重要だと考えています。ただ、代表という立場は、つい目先の利益に意識が向きがちです。だからこそ私は、私利私欲に走らず、お客様のニーズを追求し、誠実に事業と向き合う姿勢を大切にしてきました。それを愚直に積み重ねていけば、自然と会社は続いていくものと信じています。

一方で、業務の効率化や生産性向上にも力を入れています。創業当初からDX化を意識してきましたが、今後はAIも取り入れ、より質の高いサービス提供につなげていく考えです。足場工事という仕事を軸に、人材やテクノロジー、そして地域とのつながりを広げながら、さらに社会に貢献し、長く必要とされ続ける企業を目指していきたいと思います。

株式会社新翔

代表取締役

高校時代はミュージシャンを夢見て音大へ進学。裏方の技術を学ぶが、バンドの脱退に伴い足場業界へ転身。職人として経験を積みながら25歳で独立、30歳で法人化。現在は、横浜を拠点に関東圏の足場工事を手がけながら、組織づくりと業務改革を両輪で進めている。