INTERVIEW
児童精神科医が挑む、政治改革への道
医療法人社団先陣会
理事長 大和行男

都内で2箇所のクリニックを運営し、年末年始や土日・祝日診療、オンライン診療にも対応している大和行男氏。かつては教員として、現在は医師として、常に子どもたちの未来を見据えて歩んできた大和行男氏は、日々患者の声に耳を傾ける中で、医療・福祉の根本改革が不可欠だと痛感し、政界への挑戦を決意した。その熱い想いと直面する課題、そして未来へのビジョンに迫る。

家族全員の健康を一手にサポート
医療法人社団先陣会は、2018年に開業した「豊田こころのクリニック」を母体として誕生し、現在は「池上おひさまクリニック」と「イーアス高尾クリニック」を運営しています。最大の特徴は、児童精神科、皮膚科、小児科、内科、精神科など、多岐にわたる診療科目を掲げていることです。また、土日・祝日やオンライン診療にも対応し、「いつでも、だれでも診察する」医療の実現に努めています。
このような医療体制を整えたのは、お子様を診察に連れて来られる親御さんの疲れ切った姿を数多く見てきたからです。都内のクリニックは特定の診療科に特化していることが多く、親御さんはお子様の症状ごとに複数のクリニックを回らなければなりません。当院はその負担を軽減すべく、幅広い診療科に対応し、さらに院内調剤も実施することにしました。お子様を連れて来られたお母様が咳をしていた場合は、「お母さんも一緒に診ましょうか?」とお声がけすることもあります。1つのクリニックで家族全員の健康が守られれば、時間的・精神的な負担の軽減だけでなく、医療費の削減にも繋がると考えています。
教師から精神科医へ転向した理由
もともとは教職志望で、大学卒業後に中高の地理歴史科の教員免許を取得しました。教育実習中に痛感したのは、不登校児の多さです。実際、私の教育実習中にも、1人の男子生徒が学校に来られなくなってしまいました。私は彼をフォローしたいと思い、先生方に相談したところ、ある言葉が返ってきました。「高校教師の仕事は、学校へ来た生徒を見ることだ。義務教育でもない以上、来られない生徒までは対応しきれない」。私は衝撃を受けましたが、たしかに先生方には教室にいる39人の生徒を指導する責任があるのですから、先生の言葉はその通りだと思います。しかし、私の心に芽生えたのは、「『学校へ来られないたった1人』に寄り添いたい」という情熱でした。それが、精神科医を志すきっかけとなったのです。
その後、1度はサラリーマンを経験しようと一般企業へ就職し、激務の2年間を経て、医学部へ進むための学費を貯めました。あの時期があったからこそ、働く親の大変さを理解できるようになったと思います。そして、新潟大学医学部に入学し、卒業後は複数の病院で児童精神科や精神科の研修を受けました。東日本大震災の際には、被災された方々の心のケアにも携わり、人の心に寄り添う精神医療の重要性を改めて実感しました。

政界への挑戦
日々患者さまの悩みに接していると、医療業界全体の課題や、福祉の問題が多く見えてきます。疲れ切った親御さんの様子を見ると、「何か私にできることはないか」という思いが押し寄せ、お子さんの一時預かりの申し込みを本人に代わって行うなど、私なりにできることを模索してきました。しかし、それだけでは根本的な解決にはなりません。そこで私は、政策に直接関わるために、2024年の東京都知事選に立候補し、無所属新人として9,650票を獲得しました。
医療業界が抱える課題は、休日・夜間診療の充実、医薬品不足の改善など多岐にわたりますが、特に私が問題視しているのが「5歳児健診」です。これは発達障害の有無を判定することが主な目的ですが、判定を行う医師は医師会の会員と限定されています。さらに、現在の児童精神科は半年〜1年待ち、最長で2年待ちという状況です。つまり、健診で発達の問題が疑われる子どもがいても、適切なフォローを受けられないケースが発生してしまうのです。このような体制のままでは、親御さんの不安が増すばかりではないでしょうか。また、この状況につけ込むように、科学的根拠の乏しい民間療育が増えるおそれもあります。私はこれらの問題を問い続け、具体的な改善案を提案していくつもりです。一方で、医療の問題を本質的に解決するためには、福祉との連携が不可欠です。医療と福祉をシームレスに結びつけ、子どもたちが笑顔で過ごせる社会を実現するためにも、政治の力が必要だと考えています。
福祉制度にまつわる格差と支援のあり方
福祉分野においては、地域や所得によって子どもたちが受けられるサービスに大きな差があることに、強い疑問を感じています。また、不登校児の場合は特に深刻です。現在、不登校児の数は過去最多となっていますが、彼らは給食費や授業料無償化の恩恵を受けられないばかりか、フリースクールの費用や通院費、それに伴う見送りなど、親御さんの負担はより一層大きくなっています。それにもかかわらず、不登校児への支援制度には所得制限が設けられているのが現状です。少子高齢化が進む今、子どもに関するサービスが、親の所得や住む地域によって異なることはあまりにも不合理ではないでしょうか。私は「手当を増やす」よりも、「制限を減らす」ほうが、より多くの家庭にとって実質的な支援になると考えています。
不登校の原因は、家庭環境や学校環境、発達特性、生活面などさまざまですが、専門医が1人ひとりに寄り添うことができれば、薬に頼らない治療も十分可能です。しかし、残念ながら児童精神科の専門医は日本で数百人しかいません。私は、不登校児を減らすだけではなく、児童精神科の拡充を進め、子どもたちへのケアとサポートをより手厚くすること、そしてその負担を家庭ではなく、国がしっかりと支える体制を作ることが急務だと考えています。
医療大国・日本の再興
日本の医療には、国民皆保険制度や児童精神科の発達、医薬品・医療機器の高い信頼性、そして高度な医療技術など、世界に誇れる強みが数多くあります。例えば、欧米の多くの国では、かかりつけ医を通じて専門医の診察を受ける「ゲートキーパー制度」が一般的であり、児童精神科のように専門医が少ない分野では、長い待機時間が問題視されています。一方、日本では紹介状なしで専門医にアクセスできるという自由度の高さが魅力です。さらに、東アジアにおける児童精神科の領域では、日本は先進国といっても差し支えないでしょう。私は、こうした日本の強みを活かして、海外の医療保険制度や医療関係者の育成支援を行い、代わりに医薬品の原材料を輸入する「医療外交」を提案したいと思っています。
とはいえ、日本の医療現場は依然として多くの課題に直面しており、かつての「医療大国」としての地位は、近年揺らぎつつあります。医薬品不足や医療現場の逼迫といった課題を解決し、国民が皆保険のもとで安心して平等に医療を受けられる環境を整備することが必要です。日本の医療の強みを守りつつ、再び「医療大国・日本」を再興するために、今こそ抜本的な改革が求められているのではないでしょうか。
医師としての信念を貫き、政治改革へ
私は東京都知事選で「土日・祝日診療をする」と公約を掲げ、その後も公約通り診療を続けています。公約を守ることはもちろん重要ですが、医師としてフルタイムで診療をすることが責務だと考えているからです。今後、もし政界に参入することがあっても、オンライン診療を活用しながら「診察ファースト」の姿勢を貫くつもりでいます。なぜなら、有権者の声を直接聞ける場所は、国会ではなく診察の場だからです。このような考えを貫いてきた無所属新人の私でも、東京都知事選で9,650票を獲得できたことは、非常に大きな励みとなっています。
現在、医師として国会議員や地方議員を兼任されている方は多くいらっしゃいますが、フルタイムで医師業を続けながら議員活動をされている方はほとんどおらず、また、児童精神科医で議員になられている方は1人もいません。この状況で、「診察ファースト」の児童精神科医が政界参入を目指すという試みは、今の政界に新しい風を吹き込むという意味でも、続ける意義があると考えています。これからも一歩一歩着実に前進しながら、日本の未来を担う子どもたちのために、なすべきことをすべてやり遂げたい所存です。