INTERVIEW
信頼と期待に応える、オフィス内装工事
株式会社エス・ビルド
代表取締役 澤口貴一

オフィスに特化した内装事業を手がけ、年商30億円・累計4万件超の施工実績を誇る株式会社エス・ビルド。驚異の高リピート率を生み出す背景には、現場力を支える体制づくりと、働きやすい環境の追及、そして代表・澤口喜一さんの「苦労を苦労と思わない」価値観があった。幾度も荒波に直面しながらも、常にピンチをチャンスに変えてきた同社。その成長の軌跡と、100億企業に向けた今後の戦略に迫る。

オフィス内装工事のプロフェッショナル
当社は、3つの事業を展開しています。1つ目は「オフィスインテリアコンストラクション事業」。オフィスの内装工事に特化し、お客様のデザインを確実にかたちにする施工力を強みとしています。2つ目は「アーキテクチュラルソフトウェア事業」。工事に必要な積算(工事費用の算出)を効率化する自社開発ソフト『建築の電卓』を展開しており、積算時間を最大75%短縮、部材ロス50%削減を実現。全国300社以上で導入されています。3つ目は「レジンプロダクト事業」。天然木とレジンを組み合わせたレジンテーブルブランド『MURUI(=無類)』を2020年に立ち上げ、製造から販売まで一貫して自社で行っています。
この3つのうち、メイン事業となるのがオフィス内装施工です。年間2,000件超の施工実績と90%のリピート率を誇り、新規営業は行っていません。当社の品質や対応力に信頼を寄せてくださるお客様が、今も変わらず当社を選び続けてくださっています。
軽自動車で奔走した創業期
もともとはIT企業のハード部門の営業職からスタートし、不動産コンサルティング会社で働いていましたが、その会社が倒産し、2003年に独立して立ち上げたのがエス・ビルドです。創業当初はとにかく資金がなく、仕入れや資金繰りのために、10万円の軽自動車で走り回る日々でした。「とりあえずできることを」と始めたのが、間仕切り工事と備品の販売。そこでお客様に「内装工事もやれば?」と言われたのをきっかけに、ゼロから内装工事を学び始めました。職人さんと一緒に壁を立てたり、床を貼ったり、糊の種類や道具の運び方まで、すべて体で覚えていったんです。当時はただ必死でしたが、机上の勉強とは違う“現場のリアル”を肌で感じた経験は、今の事業の土台になっています。
会社が変わり始めたのは、知識のある社員が1人入った頃ですね。戦力になるだけでなく、仕入れ先やお客様まで紹介してくれました。そこから次々に人が加わり、できることが増えていったという流れです。事業を行う上で、私ひとりができることには限りがあります。だからこそ、企業の成長には“人”の力が不可欠なんだと痛感しました。

ピンチをチャンスに変え、30億企業へ
創業期の混乱を乗り越え、現在は年商30億円規模にまで成長しました。ただ、明確な成長戦略を描いてきたわけではありません。毎回、大きな局面で「今、これをやるべきだ」と判断し、柔軟に動いてきた結果だと思っています。初の転機はリーマンショック。当時は大阪本社のみで年商4億円ほどでしたが、赤字が続き、東京進出を決断しました。取引先の多くが東京本社を構えていたため、「東京でもお願いします」と提案すれば受注が拡大できるという勝算があったんです。その読みは的中し、4年で10億円を突破。さらにコロナ禍では、テレワークやオフィスのレイアウト変更にいち早く対応し、ここでも成長の波に乗れました。建設業界では「10億」が一つの壁とされますが、当社はうまく時流に乗ってきたこと、個人商店の集合体から脱却し、組織として機能する体制を整えたことで、その壁を突破できたと考えています。
これまでの道のりは決して平坦ではありませんでしたが、私自身はそれを苦労だとは思っていません。物事はすべて、自分の価値観次第です。人が絶句するような出来事でも、「まあ、こういうこともあるか」と受け止められれば、それは苦労にはならない。たとえ他人から見て微妙な状況でも、自分が満足していればそれでいい。要は、自分の心の持ちよう次第で、「楽しい」も「苦しい」もつくれる——私は、そう感じています。
お客様が“また頼みたくなる”理由
なぜ多くのお客様が継続して当社にご依頼くださるのか。理由はシンプルで、「期待に応える会社」だからだと思っています。建設業界では、たとえ料金が安くても、納期が守られない、図面通りに仕上がらない、工事が止まる──そんな事例が少なくありません。だからこそ、お客様が求めているのは「安心して任せられること」。当社は、その信頼に応える体制を整えてきました。たとえば、現場監督だけで30名以上を配置し、依頼を断らない体制を構築。組織拡大が目的ではなく、お客様から「エス・ビルドなら、いつでも受けてくれる」と安心してもらうために、キャパシティを広げてきたという感覚です。さらに、現場監督には、図面通りに仕上げる、納期を守る、嘘をつかないといった誠実さを重視し、こうした基本を徹底できる人材を現場に配置しています。
また、当社では「仕事は見て覚えろ」ではなく、座学による教育も重視しています。現場対応と人材育成を両立できるのも、監督の人数が多いからこそ。行動規範や価値観は「クレドブック」にまとめ、社員の判断軸として全社で共有しています。こうした価値観に共感し、自ら体現できる人が集まっているからこそ、組織全体の信頼感が築かれ、お客様にも「エス・ビルドなら大丈夫」と感じていただけているのだと思います。
働く人が働きやすい環境を
昔の企業は、社員同士が頻繁に飲みに行き、プライベートも共有するような家族的な組織が主流でした。しかし現在は、価値観が多様化し、ライフワークバランスや個の尊重を重視する傾向が強まっています。当社もその変化に合わせ、組織のあり方を見直してきました。具体的には、フレックス制(コアタイム10〜15時)を導入し、始業・終業時間の自由度を確保。現場監督なども、現場に合わせて柔軟に勤務時間を調整できるようにしています。現場や会議などの予定さえ守れれば、あとは各自の裁量に任せた方が、最大のパフォーマンスを発揮できると思うからです。働く場所についても、基本的にフリーアドレス制を採用し、社員はその都度好きな場所を選べます。特に東京オフィスは、ソファ席や半個室ブース、広いオープンスペースなど、より多様な働き方に対応できる設計です。空間的な自由度は、業務の効率だけでなく、心の余裕にもつながると考えています。
人生において「働く」時間というのは非常に長いもの。だからこそ、ただお金を稼ぐだけではなく、働くこと自体を楽しんでもらいたい。そのために、「社長の理想の組織づくり」ではなく、「働く人が働きやすい組織づくり」を追及することが、私の役割だと思っています。
100億企業へのカギは、“人”にある
「オフィス内装」という事業の特性上、当社の市場は国内、特にオフィスビルが集中する都市部に限られます。今後もしばらくは東京を中心に事業を進めつつ、将来的には名古屋や福岡への展開も視野に入れていきます。一方で、積算ソフト『建築の電卓』や、オリジナルブランド『MURUI』のレジンテーブルなど、自社開発製品についてはグローバル展開を目指しています。ソフトウェアは言語対応ができれば海外市場でも十分通用すると考えていますし、レジンテーブルを展示会に出展した際には、中国のバイヤーから「ドアハンドルを400本作ってほしい」と声がかかったこともありました。内装工事は施工に徹している分、“エスビルドらしさ”を直接表現できませんが、自社製品であれば、オリジナリティが打ち出せます。そういう点では、MURUIブランドのアパレルラインなども展開できると、よりワクワクできそうですね。
課題は、やはり人材不足です。現状、現場監督や営業の採用が思うように進まず、当初描いていた成長スピードに追いつけていません。しかし裏を返せば、「人が集まる会社」になれば、年商100億も十分視野に入ります。制度や体制の見直しを含め、今後はよりいっそう採用に注力していくつもりです。人材に関して、特に高度なスキルなどは求めません。私たちの全事業に共通するのは、「モノづくり」であるということ。建築も、ソフトウェアも、テーブルも、すべてお客様のために“かたちあるもの”をつくるという仕事です。そんなものづくりに前向きに向き合える人、素直で誠実な人であれば、ぜひ一緒に次のステージを目指していきたいですね。