INTERVIEW
世界が注目する“禅の心”で地域と未来を築く
曹洞宗 祥雲山 龍泰寺
住職 宮本覚道

室町時代に創建された曹洞宗・龍泰寺は、岐阜県関市で地域の人々とともに歩みを重ねてきた。境内には「あかつき幼稚園」を併設。子どもから高齢者まで多世代が集う交流の拠点にもなっている。供養の多様化や地域イベントなど新しい試みに挑むなか、その根底にあるのは常に「禅の心」。世界が注目する禅の精神を、地域と未来にどう生かすのか。住職であり園長でもある宮本 覚道氏の実践には、その答えがある。

地域に根ざすお寺と幼稚園
岐阜県関市にある龍泰寺は、曹洞宗のお寺です。その創設は室町時代にさかのぼり、古くから地域の皆さまに支えられながら、今日まで継承することができました。2025年4月から幼保連携型認定こども園に移行した、学校法人祥雲学園あかつき幼稚園も併設されています。
お寺ではお檀家さんとのご縁を、幼稚園では園児や保護者の方とのつながりを大切にしています。最近では、おじいちゃんやおばあちゃんも子育てに積的に参加するようになり、お寺と幼稚園の両方を通じて、幅広い世代の方と交流できるようになりました。知り合いばかりの田舎ということもあり、ここが地域の交流拠点のような役割を果たしているとも感じています。その意識を常に持ちながら、私たちの方からも働きかけ、人と人をつないでいくことを大事にしています。
開かれた場づくりと地域交流
近年は、お寺でマルシェを開催したり、ヨガやバランスボールの教室を開いたりしています。これはコロナ禍で人との交流が難しくなったとき、マルシェの主催者の方から「お寺を使わせてほしい」と声をかけていただいたのがきっかけでした。お寺は誰が来ても良い場所だということを知っていただけると、人が自然と集まり、交流が生まれる。人と人とのつながりが生まれることが、何より大切なことですから。
ただ、やはりお寺という場所柄「イベントをやりたい」と相談すること自体にためらう方も多いようです。ですが、そこは積極的に「ぜひ利用してください」とお伝えしています。実際にイベントで皆さんが元気になっていく姿を見ると、本当にやって良かったと心からありがたく思います。

供養の多様化と新しいニーズへの対応
宗派を問わず納骨できる永代供養墓や樹木葬を整備しました。その一環として「ペット樹木葬」もご用意しています。お檀家さんから「樹木葬はやっていないのですか」と尋ねられることが多く、その魅力を伺うと「自然に帰るようで心地いい。ペットと同じお墓に入れるのがうれしい」といった声をいただきました。もちろん、人とペットが一緒に眠ることに抵抗を持つ方もいらっしゃいます。ですから「こちらはペットと一緒に眠れる場所」「こちらは人のみの場所」と選択肢を示すことで、皆さんに一番安心できる供養を選んでいただければと思っています。その姿勢こそ、お寺として大切にしたい考えです。
今、お寺は檀家制度によって成り立っていますが、将来的には人々が自由にお寺を選ぶ時代が来ると感じています。そのときに基準となるのは、お寺の規模や施設の新しさではなく、住職やそこで暮らす人の人柄でしょう。だからこそ、今のうちに選択肢を増やし、皆さんのニーズに応えられるお寺でありたいと考えています。これからの時代に必要とされるお寺は「相談しやすいお寺」だと思います。そして相談を受けるだけでなく、行動に移し、実現していくことが大切です。皆さんから「ありがとう」と言われる瞬間に、私は大きなやりがいを感じます。人の役に立ち、その喜びが自分の幸せにもつながる。ニーズに真剣に応えることが、自分に返ってくるのだと実感しています。
坐禅や法話など禅の教えを子どもたちへ
お寺の一画にあるあかつき幼稚園は、坐禅や法話を取り入れた教育を行っています。曹洞宗の坐禅は「ただひたすらに坐る」もの。何かを求めたり、効果を得ようとしたりするものでもなく、ひたすら坐ることによって執着や煩悩から解放されて悟りの境地に至るという教えです。この坐禅の素晴らしさを園児に伝えたい。今は「坐禅をすると心がきれいになるよ」という伝え方ですが、集中して行動すれば余計なことを考えずに心が調う。坐禅を通して、遊ぶときは遊び、食べるときは食事を味わうというような、目の前のことを大切にする心を育てたいと思っています。もちろん、最初は坐れない子もいます。でも、子どもってすごいんですよ。「ここは静かにしないといけないところ」だと分かると、みんなと一緒に坐禅をしようという気持ちになる。卒園するころには、みんな20分くらいは静かに坐れるようになっていきます。私も小さいころ、坐禅で「静かに坐ることはいいことなんだ」と思った記憶があるんですね。目の前のことに集中してやり切った。その充実感と安らぎで心が満たされて、余計なことを考えなくなっていく。その実感があったからこそ、園児たちにも曹洞宗の教えを伝えたいと考えました。
幼いころから仏教の教えに触れることで、心はより豊かに育ちます。両親からいただいた命への感謝の気持ちや友達と仲良くできる楽しさを通じて、支え合うことの大切さを学べます。命には限りがあるからこそ「今を一生懸命に生きる」ことの大切さも感じてほしい。その意味を幼いころから理解できていれば、大人になっても考え込む前に行動できるようになるはずです。曹洞宗の教えは、まず行動すること。人生を自分らしく生きることで、心は豊かになります。幼保連携型認定こども園への移行も、保護者の皆さんのお役に立ちたいという思いからでした。安心してお子さんを預けられる環境をつくるだけでなく、教育にも力を入れたい。認定こども園として誇りを持ち、これからも変わらぬ姿勢で教育に取り組んでいきます。
禅を広め、未来をつくる
最終的に、私が一番大切にしたいのは「禅」の教えを広めていくこと。禅の教えを実践するなかで、心が調っていくことを自らが実感したからこそ、その教えをもっと多くの人に知ってほしいと考えています。誰もが日々を丁寧に生き、心をきれいにすれば、幸せにつながっていく。助け合える社会の実現にも近づくと思います。
禅の言葉で「潜行密用、如愚如魯(せんこうみつゆう ぐのごとくろのごとし)」という言葉があります。それは人にどう思われるかを気にせずに、自分を信じて努力し続ければ、それが自分を支える信念に変わるという教えです。なかなか難しいとは思いますが、自分がどうありたいか。自分軸を持って生きることを大事にすれば、誰もが幸せになれるのではないでしょうか。禅の教えは、今や世界的に注目されています。実際、インバウンドで坐禅体験を希望される方も増えてきました。世界に広がる禅の流れのなかで、龍泰寺がどう関わっていくかも考えていきたいと思います。間口は広く開きつつ、地域に根ざした交流の場としての役割も果たしていきたい。安心して集まれる場所として、お寺を活用していただけるよう、これからも多くの方とのご縁を大切にしながら、広い視野で新たなことに取り組んでいきたいと思っています。