INTERVIEW
ヒト・文化づくり×DXで進化するモノづくり
株式会社リノメタル
代表取締役社長 荒金賢治
取締役 組織開発・人事統括責任者 竹下(荒金)知代美

高い生産力と柔軟な提案力を強みに、自動車のトランスミッションやステアリング、カーエアコンなどの駆動系機能部品を製造する株式会社リノメタル。かつては業務の非効率性や人事的な問題を抱えていた同社だが、3代目の荒金代表によるDX推進と、竹下取締役による組織改革によって、組織の風土は大きく変わり、生産効率と社員の意欲向上を実現。モノづくり×ヒト・文化づくり×DX──二人三脚でもたらした、その変革の全貌に迫る。

国内外の自動車メーカーを支える
荒金代表:株式会社リノメタルは、私の祖父が創業し、2025年10月で70周年を迎えます。創業時は事務用品の金具を作っていました。その後、時代の変化に応じて通信機器、自動車部品へと事業を広げ、現在は国内すべての自動車メーカー、そしてBMWやアウディ、ポルシェなど世界17の主要メーカーに製品を供給しています。当社の強みは「必要なときに必要な量を供給できる生産体制」と「柔軟な提案力」です。高い技術力と設備力を生かして、毎月150種類・約900万個の製品を生産し、お客様からの「納入忠実度ランク」では長年AA評価を維持。また、お客様のご要望に応じた最適なソリューションを提案することで新たな価値を創出しています。
私はIT業界を経て、2003年にリノメタルへ入社しました。製造業の奥深さを学びながら事業を成長させ、2019年に代表に就任。「この会社を200年続く企業にしたい」と強く思い、効率的なモノづくりを推進する「DX化」と、社員が仕事にやりがいを持てる「ヒト・文化づくり」に尽力してきました。そして今なお「ヒト・文化づくりを通してモノづくりをする」という信念のもと、組織の在り方を常に見直しながら進化を続けています。

世界最先端のDXツールを自社流で使いこなす
私が入社した当時、現場はまだアナログ業務が多く、非効率な部分が目立っていました。しかし、プログラマーとしての経験から「デジタルの力で強い組織にできる」と確信。5年半で32種類のクラウドサービスを導入し、製造・人事・経理などの業務を効率化しました。特に大きく変わったのが、コミュニケーションと生産管理です。「Slack」の導入で情報共有が円滑になり、生産管理はクラウド化により24時間365日安定的な稼働を実現。部門間の連携が強化された結果、大型案件の受注につながり、年間売上は12.7億円増加しました。
その成果が評価され、2024年には経済産業省主催の「DXセレクション」にて準グランプリを受賞。当社のDX化は、「ヒト・文化づくり」と並行して改革を進めたからこそ成功したと考えています。皆が「まずはやってみよう!」と思える環境を整えたからこそ、新しい技術がスムースに定着したのです。また、世界で最先端のクラウドツールを厳選し、自社の現場に最適な形で導入したことも要因です。グローバル基準の優れたツールを「リノメタル流」に落とし込むことで、その価値を最大化できました。
日本を強くするモノづくり
私が目指すのは、従業員が楽しく快適に働ける職場をアップデートし続けることです。自分らしく働くことで自信を持ち、人生そのものを豊かにできる組織でありたいと考えています。そのためには、個々のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が必要です。たとえば、「2週間の連続有休取得」や「長期リモートワーク」など、従来の製造業の常識を覆す仕組みを導入し、DXツールを活用してどこにいても業務を進められる環境の構築を目指します。また、仕事とプライベートを切り分けず、働くことそのものを楽しむ「ワークライフインテグレーション」も推進したいですね。チームの心理的安全性を高めることで、長期帰省や海外ワーケーションも気兼ねなく実践できる、そんな組織が理想です。自由度の高い環境は社員の意欲や仕事の質を向上させ、結果「新しい技術の創出」という形でお客様へ貢献できると考えています。
当社は、引き続きデジタル変革とヒト・文化づくりの両輪を軸に、日本のモノづくりの土台を支えていきます。日本の製造業が持続的に発展すれば、国内企業の競争力は高まり、日本経済全体の成長にもつながるはずです。その未来を見据え、「日本を強くするモノづくり」を実践したい、それが私たちの想いです。
会社の風土を変えた「ヒト・文化づくり」改革
竹下取締役:「企業の持続的な成長には、安心して力を発揮できる環境が必要だ」。この考えのもと、当社は組織改革を進めてきました。2018年当時、社内には閉塞感が漂い、退職や降格を希望する社員が相次いでいました。そこで、「人がいるからこそ、素晴らしいものづくりができる」という原点に立ち返り、抜本的な改革を決意。代表がDXを推進する一方で、私はヒト・文化づくりとして、行動理念や人事制度の再構築に取り組んだのです。
その一環として、社員が安心して意見を言い合える環境を整えるため、アドラー心理学を活用。週報・月報には、成功体験や仲間への感謝を記載するルールをつくり、ポジティブなフィードバックを習慣化しました。また、会議での感謝表明や朝礼での「小さなハッピー」発表など、チームの結束を高める施策も導入。さらに、「さし飲み手当」「チームビルディング手当」などの制度を設け、オープンな対話が生まれやすい職場づくりを進めました。こうした取り組みの結果、社員の挑戦意欲が向上し、「管理職を目指したい」といった声が増加。圧力的だったマネジメント層も対話型へと変化し、組織全体の風通しが良くなりました。そしてなにより、社員一人ひとりが自己の可能性を信じ、互いを尊重しながら成長できる組織へ進化したと感じています。
3つの要素から構築される人事制度
私たちの経営の軸は「一貫性」「情熱」「論理的な設計」であり、人事制度もこの3要素を軸に構築しています。その一つが「成長の地図」です。「等級定義」を細かく定めて社員のキャリアパスを可視化し、自らの成長度と今後の道筋を明確にしました。等級ごとのスキルや役割を細かく示すことで、「何をどう頑張れば次のステップに進めるのか」が一目でわかるようになっています。また、当社では管理職と経営陣が約100時間をかけて全従業員の評価を議論し、公平な評価を徹底しています。さらに、組織全体の目標を示す「私たちの明るい未来設計図」を策定。これは、経営層と部長が年1回、3年後の理想の状態や戦略を明文化するものです。社員の成長指針である「成長の地図」と、組織のビジョンを示す「未来設計図」を連携させ、個人と組織が同じ方向を目指せる体制を築いています。
これらの制度にはすべて、企業理念・人事方針・行動指針などを軸とした「一貫性」、挑戦を後押しする「情熱」、キャリアパスの明確化や評価基準の整備など、緻密な設計に基づく「論理性」が反映されています。この枠組みがあるからこそ、社員は安心して挑戦し、成長を積み重ねていけるのです。
ローカル初の「ヒト・文化づくり」を世界へ
仕組みや制度は、一度作って終わりではなく「育て続けるもの」です。よって当社は、人事制度の見直しを継続的に行っています。特に人事評価では、「こんな評価ポイントがあれば、この人をもっと正当に評価できるのに」「こういう人材を伸ばすには、制度の方向性を変える必要がある」といった視点を持ち、改善を重ねています。また、社員が成長し続けられる環境づくりにも力を入れています。その一環として創設したのが「リノメタルアカデミー」です。こちらでは、プレゼンテーションやコミュニケーションなど幅広い研修や個人セッションを提供しています。さらに、希望者には専門スクールやセミナーへの参加機会を設け、会社が費用の大部分を負担。制度の進化とともに、社員の成長とスキル向上も促進しています。
こうした「ヒト・文化づくり」の取り組みは、世界のどの企業にも通用する普遍的なものです。そのため、リノメタルのヒト・文化づくりのノウハウを世界へ発信することも視野に入れています。ローカルな「ヒト・文化づくり」の知見が、グローバルに広がる。その循環の中で、新たな学びや気づきが生まれ、リノメタルの進化も加速させていく。そんな未来を楽しみにしています。

株式会社リノメタル
代表取締役社長
荒金賢治
東京都葛飾区出身。高校卒業後、アメリカへ留学。帰国後、ITベンチャーでウェブプログラミング・ウェブサイト制作に従事。2003年に家業である(株)リノメタルへ入社。2019年より代表取締役社長に就任。「200年続く会社」を目指し、DX推進とヒト・文化づくりの両輪で製造業の未来を切り拓いている。
取締役 組織開発・人事統括責任者
竹下(荒金)知代美
横浜国立大学大学院修了後、塾講師を経て2007年より楽天グループで人材育成・講師育成・採用・コンプライアンス教育に従事。プレゼンテーションコンサルタント・ビジネスコンサルタントとして活動後、2019年、リノメタルに参画。現在は取締役 組織開発・人事統括責任者として組織開発と人材開発・育成を推進し、リノメタルアカデミー学長も兼任している。