INTERVIEW
世界の“おいしい笑顔”を創りつづける
株式会社カンノ
取締役・副社長 菅野善一

多彩な麺づくりに挑み続ける製麺メーカー「株式会社カンノ」。顧客ごとの理想に寄り添う柔軟な開発力と、徹底した品質管理を強みに、近年はヨーロッパにも進出した。「“おいしい”にグローバルやローカルの境界線はない」と語るのは、取締役の菅野善一さん。幼い頃から「食」とともに育ってきた菅野さんに、カンノブランドを支えるものづくりの姿勢を伺った。

約600種類の麺づくりを手がける
株式会社カンノは、1949年に創業した菅野製麺所を母体とするグループ企業です。中華麺や点心、冷凍食品の製造・販売を手がけています。創業者である祖父は、戦後の厳しい食糧事情の中、「一人でも多くの人に美味しいものを届けたい」という想いから、独学で製麺技術を学び、事業を立ち上げました。以来70年以上、その想いを原点に、製品の幅や提供先を少しずつ広げ、今では全国約3,800の飲食店様とお取引をさせていただいています。
主力商品は、生麺・パスタ・うどんを含む約600種類の麺。全国各地から仕入れた約80種類の小麦粉を使い分け、ブレンドや製法にもこだわりながら、24時間体制で日産17万食の麺を製造しています。2024年には第二工場の稼働もスタートし、生産性のさらなる向上に加え、趣向性の高い製品開発にも注力。これからも“おいしい”を通して“笑顔”を届けるために、日々努力を重ねています。
父の背中から学んだ麺づくりへの情熱
私が物心ついた頃には、工場はすぐそばにありました。家の食卓に麺が並ぶことも多く、「製麺」は私にとって、日常の一部のような存在。そんな環境の中で、「食の価値」や「お客様に喜んでいただくことの意味」を、自然と体で覚えていったように思います。会社に入ってからは、製造、品質管理、開発、営業など、グループ内のあらゆる工程を経験してきました。その中でも強く印象に残っているのは、現社長である父の姿です。父の趣味は、ラーメン店の食べ歩き。数多くのご当地ラーメンを味わい、地域ごとのラーメン文化を研究していました。たとえば、九州など暖かい地域では細く白い麺が、寒い地域では太く黄色い麺が好まれるなど、地域ごとの違いにも深い関心を寄せていました。気になるお店があればどこへでも足を運び、自らの舌でその味や食感を確かめる、そんな父の情熱に、私は大きな影響を受けたのです。
そうして私も、いつしか「自分たちの商品でお客様に喜んでもらうこと」に、なによりのやりがいを感じるようになりました。今、この仕事に本気で向き合えているのは、真摯な父の背中があったからだと思っています。

挑戦が築き上げた「多品種×小ロット×高品質」の体制
創業当初、取り扱っていた麺の種類はわずか5~6種類ほどでしたが、現在は約600種類。その背景には、全国の飲食店様から寄せられる細かなご要望に応え続けてきた歴史があります。特にラーメンブームの頃には、店主一人ひとりの「理想の麺」に応えることが求められ、麺の太さ・厚み・長さ、グラム単位での調整、さらに食感の微調整など、さまざまなニーズすべてに対応できる体制を整えてきました。特に中華麺は、複数の高品質な小麦粉をブレンドし、地域ごとの好みや食文化、調理法に合わせて、最適な配合や製法を厳選。日本人の好みに合う麺づくりを意識しながら、なめらかで風味豊かな製品を意識しています。
製麺業界では、あくまで自社の製法にこだわり「うちの麺に合うお客様だけ来てください」といった方針の企業もあります。しかし、当社は一貫して「お客様の理想に合わせて麺をつくる」スタンスです。その柔軟性と対応力こそが当社最大の強みであり、バラエティ豊かな製品を生み出してきた原動力と言えるでしょう。これからも、お客様の声を起点に、妥協のない製品づくりを追求していきます。
“安心”と“おいしさ”を支える、品質管理
食を扱う企業として、「安心・安全」を守ることは当然の義務です。だからこそ、私たちは早くから衛生管理の強化に取り組んできました。製造現場の清潔さはもちろんですが、それだけでは不十分。原料の入荷から製造・出荷までの全工程において、あらゆるリスクを事前に予測し、防止する体制が必要です。いち早くHACCP方式を導入したのも、その考えによるものでした。現在では、食品安全マネジメントの国際規格「FSSC22000」の認証も取得し、より高い基準での管理体制を築いています。
工場内には品質管理専用の検査室を設け、微生物検査や水分・pHの測定、温度・湿度のモニタリングを毎日実施。麺は湿度や温度によって状態が大きく変わる“生き物”です。だからこそ、一定の品質を保つには、こうした徹底的な管理体制が不可欠となります。また、製造現場の全ラインに金属探知機を備え、異物混入のリスクにも備えています。人による製品の試食チェックも欠かしません。安心・安全を守るためには、たった一つのミスも見逃さない──それこそが、“安心できるおいしさ”を届けるための、私たちの基本姿勢なのです。
「おいしい」は、世界の共通言語
私たちはこれまで、地域とのつながりも大切にしてきました。たとえば、当社の工場がある埼玉県松伏町では、地域住民の方々に当社の製品をお届けするマルシェを開催しています。これは、工場建設を受け入れてくださった地域への恩返しとして、地域活性化の一助になればとの思いも込めています。
一方で、当社はヨーロッパ進出という新たな挑戦に取り組んでいます。2024年夏には、ポーランドに構えた現地工場を本格稼働させ、フランス、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルクなどヨーロッパ各国に向けた出荷をスタートしました。現地には、日本人の技術者を常駐させ、製麺の指導や品質安定のための調整を行っています。しかし、現地の小麦粉や水は日本とはまったく性質が異なり、当初は試作を何度も繰り返す日々が続きました。もちろん、日本の原料を輸入するという選択肢もありましたが、それでは製品コストが上がり、お客様に「食」を気軽に楽しんでいただけなくなってしまう。ヨーロッパでも日本流のラーメンが広まりつつある今、それだけは避けたかったのです。安定した製品づくりには、約1年を要しましたが、いよいよこれから、本格的に現地での販売実績を築いていく段階に入ります。日本でも海外でも、お客様がおいしいものを食べたときの笑顔を見ると、「おいしいは世界の共通言語」なのだと実感します。文化や言葉が違っても、“食の喜び”はきっと伝わる。私たちはこれからも、地域に根ざしながら、世界の食卓へカンノの麺を届けていきたいと考えています。
妥協なき製品づくりと、とどまらぬ挑戦
私たちが目指しているのは、「価格」と「品質」のどちらにも妥協しない会社です。物流費や原材料費の高騰が続く中、ただ値上げで対応するのではなく、生産性や物流体制の見直しによって、できる限りお求めやすい価格で製品をお届けしたい。それは、当社がこだわり抜いた「おいしさ」を、一人でも多くの方に届けたいという想いがあるからです。現在は、自社物流を活かしつつ、製造工程の効率化を最優先に進めています。製品づくりにおいては、もちろん「妥協しない」姿勢が大前提です。品質にブレのない商品を、トラブルなく、効率よくお届けすること。簡単ではありませんが、それこそが私たちのやりがいであり、これからの時代に求められる価値だと考えています。
今後は、ヨーロッパでの挑戦もさらに加速させていく予定です。ポーランドを起点に、カンノの麺をヨーロッパ全域へ広げていきたい。そのためにも、現地の食文化や価格感にも寄り添った“ローカライズされた商品開発”を模索しながら、一歩ずつ歩みを進めていきます。
「とにかく美味しいものを提供したい」。
この気持ちは、今もこの先も変わりません。これからも社員一同力を合わせ、「安全」「安定」「安心」を掲げながら、世界へカンノの製品を長く届け続けていきたいと思います。