INTERVIEW

平和構築につながるプログラムを展開

一般社団法人グローバル・ピース・ファウンデーション・ジャパン

代表理事 後藤亜也

すべての人々は人種・国籍・宗教・文化を超えて一つの家族(One Family under God)であるという平和構築のビジョンに基づいて、共通のアイデンティティを持つことができるようファシリテートするプログラムを提供する一般社団法人グローバル・ピース・ファウンデーション・ジャパン。2009年に同法人の本部にあたる国際NPOのGlobal Peace Foundationの米国での設立に関わった後藤亜也代表理事に、その理念や日本での活動について話を聞いた。

平和構築につながるプログラムを展開

世界各国が持つ社会的なイシューはそれぞれ違うものですが、共通していることは人種や国籍、宗教、文化などのアイデンティティの違いがあることでコンフリクト(葛藤・摩擦)が起こっていること。例えば、人口及びGDP規模がアフリカで第1位のナイジェリアは、北半分がイスラム教、南半分がキリスト教の信者が多く、混在している中央の地域では摩擦があり、事件も多く起こっています。そこで、私たちは宗教や文化の違いを超え、みんなが同じ“ワンファミリー”だということを理解してもらうプロジェクトを始めました。村の学校の修復をしたり、井戸を作ったり。子どもたちのため、というのは宗教の違いとは関係ない共通の課題ですから。そういった機会を提供し、信頼のある人間関係を作ると摩擦や葛藤がなくなっていくわけです。

私たちは、そういった形で「違い」を超えた共通のアイデンティティを持つことができるようファシリテートし、共通の課題解決のために協働しながら人間関係を築くことが平和構築につながると考えています。同じビジョンを共有し、互いに時間を共有したり共通の課題に取り組んだりする中で、人間関係を作っていくプログラムを世界で展開している、というのが活動の軸になっています。

違いを超えて一つになるための情報発信を

日本では、違いゆえの深刻な葛藤や摩擦などは表面上あまりないように思われていますが、今後潜在的に起こりうる課題を見つめています。例えば今、日本には約300万人の在留外国人の方々がいらっしゃいます。加えて、年間で約3000万人という訪日外国人旅行者がいて、日本人の文化とは違う文化が入ってくるとなると、なかなかうまくいかないことも多くなっていくのではないでしょうか。ですから、そうした違うアイデンティティをもった方々と共生していくことが日本の今後の大きな課題となる日本で、多文化共生のポジティブな文化を発信したい。その考えから「多文化おもてなしフェスティバル」というイベントを2015年から年に一度開催しています。

日本人はお客様に対する“おもてなし”はとても得意だと言われます。ですが、本当の意味での“おもてなし”は、家族のように人と関わっていくことことだと思います。そういう意味での“おもてなし”文化は日本人の中にもっとあってもいいのではないでしょうか。フィリピンやブラジルなどの方々とお会いすると、本当に家族的に迎え入れてくれる。これは素晴らしい文化だと感じますし、彼らの強みにもなっている。日本人も彼らから学ばなくてはいけない、ということで国籍などを超えてみんながワンファミリーになっていく文化を発信しようと作ったのが「多文化おもてなしフェスティバル」です。今年も11月に予定されている「多文化おもてなしフェスティバル」ですが、さまざまな国の踊りや歌を始め、文化背景の違うパフォーマンスがコラボレーションするステージと食べものや文化を展示する出店などを展開します。例えば、有名な和太鼓奏者と朝鮮の伝統的な舞踊がコラボするパフォーマンスも予定していますが、何かを超えて違うものが一つになろうとする。それがワンファミリーの文化を出していこうという表現につながっていると感じています。月に一度、多種多様な各コミュニティのリーダーが集まってフェスティバルについての企画を相談していますが、それ自体が人間関係を構築する素敵なプログラムになっています。

理想は「人類はみんな一つの家族」

その一方で、国外では朝鮮半島についての支援事業も行っています。日本に一番近い韓国と北朝鮮ですが、同じ民族、同じ言語を使う民族なのに南北に分断されている。歴史を考えると日本も深く関わっているわけですから、それを理解し、何かできることがあるのではないかと考える必要があるのではないでしょうか。

日本人はよく人助けの精神、利他的な精神があると言われます。だったら、その絆を大切にする精神をここに活かそう、と伝えたい。私たちが考える平和のビジョンは「人類はみんな一つの家族」だというものです。国家が分断されて、約1000万人の人が離散家族になっている。これを何とかしたいという意識を持っていただくための「ピース・デザイン・フォーラム」も開催しています。平和のことを自発的にクリエイティブに考えていく。そうした機会を持ってもらうフォーラムで、日本と朝鮮半島の関係、日本とアジアの関係を未来志向で様々な角度から考えるプログラムを提供しています。

米国で発足した国際NPO団体が原点

当団体の原点は、2009年に米国で発足した国際NPOのGlobal Peace Foundationです。大学を卒業後、学生時代から活動していた国際NPOの職員として米国に移住した私は、活動を通じて、世界のコンフリクトは違いを超えられない苦しさから始まっているのではないか。何か共通のものを通してそれを超えていくことはできないのか、という思いを強く持つようになっていました。それが徐々に明確になり、ビジョンステートメントを作りながら発足したのがGlobal Peace Foundation(GPF)です。その後、フィリピンやインドネシア、マレーシア、アフリカ諸国など私が理事に入って作っていきましたが、日本でもこういった団体が必要だと感じ、2012年に日本支部である一般社団法人グローバル・ピース・ファウンデーション・ジャパンを立ち上げました。

ちょうど2012年は、北朝鮮で金正恩が指導者になった年。南北が一つになるべきだという機運が高まったときでもありました。北朝鮮の人権改善のための支援事業はもちろんですが、南北を一つにするためのサポート。自由で平和的な統一を支援するためのプログラムとして「ワンコリアグローバルキャンペーン」をGPFが展開し、日本からもそれを支援していきたいという考えがありました。在日コリアンの方々にとっては自分の故郷が分断されているというのは心が苦しいものだと思います。今の若い方はそういった意識も薄れているかもしれませんが、日本の中からもそういった意識を高めていきたいと考えています。

日本からポジティブな機運を作っていきたい

2009年の発足当時は、手探り状態だったところもありました。ですが、人々の持つ大きな「夢」の力を大切にしながら、「違い」を超えてワンファミリーになるというビジョンは変わっていません。実は、世界にも同じような夢や精神があります。例えば、古代インド哲学ではヴァスダイヴァ・クトゥンバカム(世界は一つの家族)、アフリカのウブントゥ(あなたがいてくれるから私がいる)という精神も周りの人と共に生きることを強調しています。これらは、とてもシンプルでありながらも非常に影響力のあるビジョン。米国では、我々の活動について深刻な問題を未然に防ぐ国土安全保障省からも助成金をいただき、人種を越えたコミュニケーションを促進するプログラムを提供しています。

昨年インドで開催されたG20とC20(Civil20)という市民社会の代表からなるエンゲージメントグループの会議でも、ワンワールドファミリー、世界は一つの家族だというものがテーマになっていましたが、今後の日本において外国からの旅行者や移住者が増えていくことを予想すると、このビジョンをもとに多文化の方々と協働し、人間関係を構築していくことはとても重要なことだと思います。違いを超えて一つになる力というのは、日本のなかでこそ作られるべきで、もっとポジティブなものが出てくる機運を作ることができるのではないでしょうか。そのためにも、私たちはそういったことを学ぶ場を作り、発信し続けていく必要があると思っています。私たちの活動はまだ日本では比較的プレゼンスが小さいですが、深刻な課題を持つ国々ではその活動が社会的に大きく評価されていますし、活動にボランティアとして参加することも可能です。ご関心のある方はぜひご連絡ください。

一般社団法人グローバル・ピース・ファウンデーション・ジャパン

代表理事

慶応義塾大学理工学部応用化学科を卒業後、国際NGOの立ち上げに関わり、2001年に米国ニューヨーク州に移住。2009年に米国で国際NPOのGlobal Peace Foundationを設立し、上級副会長として各国支部を監督。2011年に活動拠点をシアトルに移動。2012年、日本支部である一般社団法人グローバル・ピース・ファウンデーション・ジャパンを設立。2019年、国連経済社会理事会の特殊諮問資格を取得。