INTERVIEW

ものづくり業界の信頼に応え続けていくために

株式会社ダイワキコー

代表取締役 芝大輔

1983年の創業以来、人々の生活を陰から支える成形・金型業界で卸売業を行ってきた株式会社ダイワキコー。業界に特化した専門性を強みとする同社だが、2代目代表である芝大輔さんは現状の商品力に甘んじず、常に新しい価値創出を目指しながら、ものづくり現場の声に耳を傾け続けている。ディズニーランドのキャスト経験や中国駐在など、異色の経歴を持つ氏に、これまでの道のりと展望を語って頂いた。

ものづくり業界のニーズに寄り添う

当社は機械器具販売業を行う商社として、主にプラスチック成形・金型関連の工具や薬剤などを取り扱っています。2020年からスタートさせたEC事業では、DIYやものづくりを楽しまれる個人のお客様に向けて、ニッパーやペンチ、ハンダゴテなどの一般工具も販売してきました。先代の時代は専門性を武器にBtoBに特化していた当社ですが、商社の定義が「物を仕入れて販売する会社」ならば、商品のバラエティーを増やしてお客様の間口を広げることも商社のミッションではないか。EC事業はそんな思いからの試みでした。全く新しい方向性を提示したために最初は先代から反対を受けましたが、私は会社の販売力を高めることがお客様の信頼に繋がることを何度も説得し、さらに数字上の実績も示したことで、事業として順調に継続しています。

2022年に代表に就任して以降は、営業スタイルも一新しました。以前はお客様にカタログを送付して反応を待つ「受け身」の営業でしたが、現在は積極的にお客様のもとへ伺うよう呼びかけています。お客様の現場で実際に何が起こっているのかを見ること、話を伺うこと、そして提案をすること。そんな「寄り添う」姿勢こそ、仕事で最も重要なことではないかと私は考えているのです。

ディズニーで学んだ、経営の根本と顧客満足の極意

ダイワキコーは先代である父が創業した会社ですが、私は昔から会社を継ぐ意志はなく、「直接的に人の役に立って喜ばせたい」という理由からサービス業を志していました。なかでも、幼い頃からよく足を運んでいたディズニーランドで働いてみたいという思いが捨てきれず、家族に「2年間」という期間を約束した上でカストーディアルキャスト(パーク内外の清掃やゲストサポートを行うスタッフ)として働き始めました。なぜ清掃員を選んだのか。それは昔、私がパーク内で迷子になった際に、カーストーディアルキャストの男性に非常に良くして頂いた実体験があったからです。

実際に働いてみて、意外だと感じた点が2つありました。1つ目は、キャスト達の価値観の最上位にあるのが「エンターテインメント」ではなく「安全性」だということ。何を置いても、ゲスト・キャストが安全でなくては、パークの思い出が残念なものになってしまうためです。実はこれはどんなビジネスも同様で、そもそも安全性が確保されなければ、利益や社会貢献などはありません。死角になりやすい部分だからこそ、常に掲げて遵守する姿勢が大切なのだと気付かされました。そして2つ目は、仕事に関するマニュアルはあっても、「ゲストへのサービス」に関するマニュアルが何もないことです。ホスピタリティを重視するディズニーランドでなぜ?と、皆さんも思われるのではないでしょうか。一方で、パークではゲストからのお手紙や喜びの声が逐一、共有されていました。つまり、マニュアルに頼っていては、一人ひとりのゲストに喜んで頂くことができないため、キャスト達には過去の成功事例を参考にしながらオリジナルのおもてなしを行ってほしいという意図があったのだと思います。この考え方には私も深く感動しました。だからこそ「寄り添うことが重要」だという仕事の価値眼が、私の中に深く根差したのだと思います。

新たな歴史を紡ぐ身としての葛藤

ディズニーランドでの2年間を終え、転職したのはとある環境機器メーカーです。中国に1年駐在し、帰国後は総務部に配属されました。すると、当時の代表と距離が近くなったこともあり、社内の様々ことがクリアに見えるようになりました。特に創業者である会長と、そのご子息である代表との関係性、後継にまつわる問題などはとても他人事とは思えず、私はそこで初めて父と向き合う決意をしたのです。

代表に就任してからまだ日が浅いこともあり、正直なところ「早く実績を上げたい」という焦りもあります。しかしダイワキコーという会社は「残業なし」のルールを遵守してきた会社であり、その根底には就業時間内にしっかりと集中してもらい、あとは自分の時間を楽しんでほしいという思いがあります。この決まりを破ってまで成果を急げば、それは私個人のエゴになってしまうでしょう。事業を実際に行うのは私ではなく、従業員の方やパートナー企業様に他なりません。そうであれば、私が向き合うべきは未来への焦りではなく、皆さんに無理のないペースで着実に会社を発展させていくことだと考えてきました。「皆さんの協力なくして事業はない」。この事実を、自戒の意味を込めて常に念頭に置いています。

中国で感じた、異なる価値観に触れる重要さ

2023年に中国法人を立ち上げましたが、これは会社員時代に中国へ駐在した経験が大きく影響しています。当時は中国といえば「話し方が怖い」「日本への敵対意識が強そう」といったイメージも少なからずあったのですが、実際に現地で暮らしたことによってその印象はガラリと覆されました。当然ながら性格や信条は人それぞれですし、話し方が強そうな印象を受けるのも、中国語におけるコミュニケーション上の問題に過ぎません。先入観は消え、代わりに誠実さや律儀な面など、魅力的な部分をたくさん知れたことで、私は中国という国に大変愛着を持つようになったのです。

また、言語や慣習が異なっても、熱意や真剣さは必ず伝わるということも学びました。裏を返せば、言葉が通じてもそこに想いがこもらなければ、人には届かないのだと思っています。こうした学びも含め、異文化と真正面から向き合い、そして溶け込むことは、自分が一回り大きく成長できる貴重な体験になり得ます。そして駐在経験を経て、私は世界に向けた仕事を展開したいと考えるようになりました。

世界の”ローカル”と深く関わりたい

現在は中国とご縁を結んでいますが、ゆくゆくは他国にも視野を広げていきたいと考えています。そのためにも当社が扱う商品だけではなく、各国のニーズやトレンドに沿った商材を取り揃えた上で、マーケットに参入していくつもりです。そして中国や東南アジア、ヨーロッパなど、日本とは全く異なる市場で評価されている「良い商品」を発掘し、日本のものづくり業界に新たな価値として還元したいと考えています。

海外での事業展開を一概に「グローバルな取り組み」と括ることを、私はあまり良く思いません。「グローバル」とはすなわち「ローカル」の集合体です。そして外国で事業を行うということは、一つひとつの国の特性を知り、ローカルに根差したビジネスを展開することなのだと思っています。それだけ熱量の必要なことをするのですから、世界のすべての国に拠点を構えるといった大きな構想はとても描けません。それよりも、当社の業種とシナジーがあり、信頼を置ける国々と縁を結び、深くアプローチしていきたいというのが、私の望む海外進出の形なのです。

リスペクトを忘れず、共に同じ未来を目指す

以前までは「物販の会社」という印象が色濃かった当社ですが、現在は「お客様に寄り添う企業」という新たな理念を皆で共有しながら、日々進化を続けています。このまま着実に歩みを進め、50周年までには、ものづくりに関わるすべてのお客様から愛される企業になることが目標です。

ただでさえ価値観の異なる個々人に、たった一つの理念を実践してもらうことは非常に骨の折れることです。しかし、そうしてもらわなければ会社の精神は具現化していかないでしょう。また、頭ごなしに「やりなさい」と言うのでは意味がありません。皆さんが自ら理念について考え、理解し、行動することが重要なのです。その実現のために私がすべき仕事は、会社のよりよい方向性を模索すること、そして力を貸してくれる皆さん一人ひとりをリスペクトし、その心に寄り添っていくことではないかと信じています。

株式会社ダイワキコー

代表取締役

ディズニーランド、環境機器メーカー勤務を経て、父親が創業者である「株式会社ダイワキコー」へ入社。2022年に代表取締役に就任。EC事業、中国法人の立ち上げなど新規事業に意欲的に取り組み、今後は「環境×食品」に関連した事業も検討している。