INTERVIEW
自立生活を支援する「在宅ケア」という伴走者
株式会社CHOUETTE
代表取締役 川北朋子
居宅介護支援事業所と訪問看護ステーションを運営する株式会社CHOUETTE。代表取締役の川北朋子さんは、看護師、ケアマネジャー、保健師としてキャリアを積み重ねたのち、利用者の意志を尊重しながら、細やかな介護福祉サービスを提供できる在宅ケアに大きなやりがいを感じて独立。「他所では受け入れが難しい方も幅広くお受けしています」と語る川北さんに、事業にかける想いをお話頂いた。
幅広い在宅ケアサービスを提供
札幌市全域と一部江別市を主な対象エリアとして、居宅介護支援事業所と訪問看護ステーションを運営しています。居宅介護支援にはベテランの主任ケアマネジャーが4名、訪問看護には男女の看護師、さらに理学療法士と作業療法士が各3名ずつ在籍しており、幅広い利用者様に対応しています。ケアマネジャーの仕事は、在宅生活を支えるための介護サービスの計画立案や一連の手続きを行うことです。利用者ご本人やご家族の意向だけでなく、医師の意見をもとに専門的な判断を下し、最適なサービスを提供することが求められます。たとえば、ご本人が「訪問でリハビリを受けたい」と希望しても、ケアマネジャーが「デイケアでの運動が適している」と判断すれば、その旨を提案します。できるだけ自立した在宅生活を送って頂くことを目指して、さまざまな選択肢を取り入れていくのです。
訪問看護では、医療器具や服薬の管理、点滴や輸血などの医療処置をはじめ、会話のキャッチボールやゲームを通じた認知症の予防なども行っています。さらに、理学療法士と作業療法士による機能訓練、生活に必要な家事動作の支援、精神疾患を抱える利用者様へのメンタルケアや社会復帰に向けたサポートも、当社の取り組みの一環です。
日々変わる利用者の心境に寄り添う
在宅介護サービスは、病院のように24時間体制で見守られている環境とは異なり、ご家族や近隣住民の方、民生委員の方など、さまざまな方々との協力が欠かせません。また、家というプライベートな場所にお邪魔する以上、プライバシーへの配慮も必要です。私が思うに、在宅サービスにおいて大切なことは、まずご本人を理解すること。そして利用者様のお宅のルールは何なのかしっかり把握しておくこと。そして、アドバイスを受け入れて頂くために、利用者様と信頼関係を築くことです。私達が少しでも「サポートが必要だから」と押し入るような真似をすれば、利用者様からの信頼は一瞬にして崩れ、「それならサポートなんていらない」と言われてしまう結果にもなりかねません。ですから、利用者様のポリシーを大切にし、関係性を築いた上で、徐々にサポートを提供していきます。
私達は利用者様が満足される形でのサポートを最も重視していますが、ご本人がどういう状態を望まれるのかは、その時々によって変わります。たとえば、普段は肺がんを恐れないという愛煙家の方でも、実際に息苦しさを感じると、価値観がガラリと変わることもあるのです。そのような場合でも、「だから言ったのに」という態度で接するのではなく、利用者様の気持ちに寄り添って柔軟に対応することが重要だと思っています。最終的に「この選択をしてよかった」と思って頂くためには、利用者様のニーズの変化に、その都度対応していくことが求められるのです。
本当に人のためになる介護福祉サービスを求めて
私は札幌医科大学を経て、地域のクリニックや病院、デイケア、地域包括支援センターなどで看護師、ケアマネジャー、保健師として働いてきました。ときに現場で疑問を感じつつも、自分1人の力で組織を変えることが難しいことも理解していました。当社を設立したのは、自分が本当にやりたい仕事を実現できる場所を作るためです。育児と仕事の両立に苦労した経験から、職員が休暇を取りやすい環境を整えることにも力を入れています。また、私自身に看護師、ケアマネジャー、保健師としての経験があるため、業務内容や、職員達の言動の背景を理解しやすく、それが業務改善にも繋がっていると思っています。
「病にならないための心がけ」を伝えていきたい
私が初めて働いた札幌医科大学付属病院の旧第2外科では、先天性心疾患を抱える子供達と、生活習慣病で心疾患を患った方の両方を受け入れていました。やむをえず病を抱えて生まれてきた子供と、長年の生活習慣が誘因となって病気になってしまった人。一体どちらに医療費が費やされるべきかと考えると、なんとも言えない気持ちになったものです。そして、予防医療の重要さを痛感したのもそのときでした。もし1人1人が病気予防に努めれば、医療費を減らし、先天性疾患や難病を抱える人達へ予算を回すことができるはずです。その後私は、地域包括支援センターで保健師として高齢者へ健康講話を行っていましたが、予防医療への意識はもう少し早くから持たれるべきだと感じました。この経験から、現在は訪問看護で利用者様と頻繁に接する機会を活かし、予防的な視点からのアドバイスもお伝えしています。地道な活動ではありますが、皆さんの健康寿命の延伸や、この国の医療費削減の一助になればと思っています。
ただ、「予防医療」と一口に言っても、すでに定着した習慣や意識を変えることは簡単ではありません。だからこそ定期的に訪問する私達が、根気強く伴走することで、少しずつでも良い方向に進んでいけたらと思っています。また、予防医療では不調の早期発見も重要です。当社では利用者様の発語やゲーム中の様子を細かく観察し、体調の変化を見逃さないよう努めています。こうした些細な変化は、病院の限られた診察時間では見落とされがちです。日常的に利用者様の様子を把握している私達だからこそ担える役割だと思っています。
職員数にゆとりを持たせる理由
人員に余裕がない状態で仕事をすると、会社の利益は増えますが、職員1人ひとりが休みにくくなり、パフォーマンスも低下してしまいます。仕事の質を高めるには、自分の業務を振り返る時間が必要だというのが私の考えです。時間に追われてただ業務をこなすだけでは、それは「看護」とは呼べません。私達の仕事は、些細な変化を見逃さず、試行錯誤しながら実践し、結果を振り返るというプロセスの積み重ねなのです。そのため、単に事業規模の拡大を目的とするのではなく、業務の質を確保するために、積極的に職員を採用しています。私とは異なる価値観を持つ人材を採用することで、多様な人達が集う環境を作り、視野の広い職員達を育てていきたいと考えています。あえて職員を2人1組で訪問させることがあるのですが、これも互いの仕事を見て、自分の仕事を振り返る機会になればとの想いからです。
職員の増強と成長を通じて、最大限のサポートを継続
当社は特に精神、小児、救急といった分野に特化しているわけではありませんが、その分、他の施設での受け入れが難しい身寄りのない利用者様や、家庭内で問題を抱えている方々なども幅広く受け入れています。ご依頼がある限り、どんな方にも最善を尽くしたいというのが私の想いです。このような背景から、介護だけでなく、福祉関係の制度にも自ずと精通できる環境が整っており、職員自身の成長にも繋がっていると自負しています。今後は認知度の向上に向けて、SNSでの発信活動に注力するとともに、引き続き積極的な職員採用を進め、幅広いニーズに対して質の高い医療介護を提供し続けられる事業体でありたいと考えています。
定期的にお宅へ伺うとはいえ、1週間に1~2時間の訪問は非常に限られた時間です。だからこそ私達は「限られた時間の中で、どのように働きかければ、私達がいない間も良い状態を維持して生活をしてもらえるだろうか?」そんな問いを常に念頭に置きながら、利用者様と真摯に向き合い続けています。