INTERVIEW

感動を生む客室清掃で清掃業界を変える

株式会社チェッカーワン

代表取締役 島本整

シティホテルや一棟型ゲストハウス、グランピング施設などの清掃を請け負う株式会社チェッカーワン。「きれいの先を~創造する~」を経営理念に、清掃業界の新たなシステム作りを目指す島本整代表は、客室清掃をよりクリエイティブに。その部屋を訪れた客にささやかな感動を届ける“ゲストルームコーディネーター”を生み出したい、と意気込む。

小さな感動を生む客室清掃を提供したい

当社は、ホテルなど客室清掃を請け負う会社として2021年9月に設立しました。設立前から、私のなかには客室清掃に対して「ただ部屋をきれいに整えて次のお客さまに提供するだけでなく、きれいに整えたその先から始まるもの」という考えがありました。例えば、エアコンの温度。掃除後に設定する客室の温度は、どこのホテルでもマニュアルで決まっており、どの部屋も一律に同じ温度です。ですが、私はそこに疑問を持ちました。部屋の形も違えば、窓の向きも違う。同じチェックイン時間でも、西向きの窓がある部屋と東向きの窓がある部屋では、設定温度は変えるべきではないかと。掃除を終えたあと、そういったところまで気を配り、ベストの状態でお客さまを迎える状態にする。それが清掃、という言葉には含まれてもいいはずだと。

それを踏まえ、当社では「きれいの先を~創造する~」という経営理念を掲げています。清掃後のお部屋に入ったお客さまがどう感じるのか。どういう風にしたら快適に過ごせるのか。そこに小さな感動、少しのサプライズ要素があるようにしたいと考えています。

表面上だけでなく見えない部分を重視した清掃を

我々にとって、「なんとなくくつろげる部屋」というのは、最高の誉め言葉です。それは、表面上だけをきれいに整えただけでなく、見えない部分にも気を配っているからこそ、生まれるものだからです。ですが、先ほど例に出したエアコンの温度など見えない部分を重視した客室清掃をしたい、という私の想いは同業他社にもなかなか理解されず、逆に「見えないところを重視する必要があるのか」と言われることも多々あります。ですが、私は今の「きれいに整えた部屋を提供するだけ」という清掃業界の概念を変えたい。清掃というのは、「快適な状態にコーディネートされた空間を提供する」というのが本来の意味だとし、それを新たな形の清掃として我々が広めていきたいと思っています。

今後10年、20年先を考えたときに、表面的な清掃だけであれば、それはロボットに取って代わられてしまうでしょう。とはいえ、最終的なチェックやお客さまへの気配りは人間の手が必要になってくるはず。ロボットが次のお客さまのことを考えてエアコンの温度を変えよう、とは思わないですよね。これからの清掃会社は、そういったことができるところが生き残っていくのでは、と思います。

清掃をクリエイティブな仕事に

清掃業界は、これまでずっと閉鎖的な業界でした。これを私は大きく変えたいと思っています。その第一歩として、今年3月にゲストルームコーディネーターという商標を登録しました。もちろん、これまでの清掃の概念が根本にはありますが、ゲストルームコーディネーターと名称を付けることで、清掃をもっとクリエイティブな仕事だと位置づけたいと考えています。

ゲストルームコーディネーターというのは、今お話したように単に掃除して終わりではなく、お客さまにどうしたら喜んでもらえるのか。それを五感で得ることができる人のことを指しています。お客様がお部屋でどう過ごすのか。使いやすい導線を考えながら、お部屋を整えていくことができるのがゲストルームコーディネーター。そういった存在が今後さらに必要になってくるのではないか、と思っています。

原点は相手のことを考える、という想い

掃除は掃除だけでいいのでは、と思う方も多いでしょう。ですが、私が考えるゲストルームコーディネーターは、相手のことを考えるというオーソドックスな思いが根底にあります。掃除を請け負う我々は、お客さまに接することがありません。ですが、我々が清掃した部屋は、何よりもお客さまと一番長く接するもの。やっぱり気は抜けないなと感じます。

相手のことを思いやる、という精神は、若いときに芸人の付き人をしていた経験が原点です。付き人時代、舞台袖で師匠を迎えるときにおしぼりを渡すことがありました。熱くもなく、ぬるくもなく、ちょうどいい温度で渡さねばならず、それはやっぱり相手のことを考えていないと、適温で渡せないんですね。掃除も同じで、この部屋で過ごす人のことを考えながら、掃除機をかけると仕上がりが変わってくる。それが何より重要なことでは、と感じています

三つの清掃サービスを柱に提供

現在、当社ではスポット清掃と一棟委託清掃、チェッカー特化委託という三つを柱に清掃サービスを提供しています。スポット清掃というのは、人手が足りない時や稼働率の高い週末など、ピンポイントに依頼を受ける形です。そもそも我々は、コロナ禍で立ち上げた清掃会社。当時のホテル業界と言えば、数%の稼働率で清掃会社を使う必要がなく、解雇される清掃スタッフも多く存在しました。ですが、コロナ禍が明けたあとはどうするのか。解雇してしまった清掃スタッフの穴埋めに必要なときだけでもいいので、私たちのところから数名スタッフとして雇ってください、ということを話すため、大阪市内の各ホテルに飛び込みで営業をかけるところから始まりました。従来の形のままでは継続できなかった清掃会社も多く、お互い協力するスタイルで受注が増えていきました。

そして、一棟委託清掃というのは文字通り、ゲストハウスなどすべてのお部屋の清掃をレギュラーで請け負う、というスタイルです。民泊の清掃も請け負っていますが、お客さまの滞在日数が多いときはスポット清掃に切り替えるなど、臨機応変に対応しています。また、チェッカー特化委託は、ほかの清掃会社さんやホテルの清掃スタッフが清掃した部屋の最終チェックだけを請け負うもの。ゲストルームコーディネーターの前段階という感じですが、そういった最終チェックも得意としているところです。

清掃を通して日本の侘び寂びを伝えたい

当社には、現在30名ほどの従業員がいますが、海外からの働き手も多く存在します。インドやインドネシア、ミャンマーなど、能力の高い方も少なくありません。そういった方々に、私は日本の侘び寂びまで教えるようにしています。同業他社から「海外の方は日本の清掃には合わない」と聞くこともありますが、根気よく教えていけば分かってもらえると感じています。日本で得た侘び寂びを母国で活かしてほしい、という想いも持っています。ほかの国の精神を取り入れた新たな発想を育った地域で展開するといったことが、グローバルにつながるのではないでしょうか。

国内においては、清掃という仕事の地位をもっと上げたいですね。例えば、アルバイトを探すときに「清掃の仕事をやりたい」と思ってもらえるように、ゲストルームコーディネーターの有資格者が5万人いる世界を作りたいと考えています。インテリアコーディネーターが今、国内に4万5000人いるそうなので、それを超えたい。私と同じ想いの方がもっと多く出てくれば、清掃業界は一発で変わるはずです。

清掃には人生を変える効果がある

今、何かを諦めようとしている方こそ、清掃業界が向いていると感じます。いろいろ細かいことが気になる、神経質だという方。そして、それが原因で挫折している方は、ぜひ当社に来てください。人生が変わるはずです。というのも、さまざまな職業を経験してきた私もこれまでが挫折だらけの人生だったからです。でも、ただそれがよかったなと思うのは、ここで今までの集大成を出せていること。そのおかげで、清掃業界を変える第一人者になる、という希望ができましたから。

また、世の中からいなくなってしまいたいと思っている人がいたら、騙されたと思って自分の部屋の掃除をしてみてください。徹底的に部屋をきれいにしたら、自分の生活の導線を考えてインテリアをコーディネートしてみる。そこから、どんどんポジティブな気持ちが生まれてくるはずです。清掃には自分の心を、そして、人生を変える効果もあると思います。

株式会社チェッカーワン

代表取締役

14歳で劇団に所属し、NHK朝ドラ(レギュラー)や、CM、ポスターモデルを経て、高校卒業後、知人の石鹸工場に入社。23歳の時、吉本興業所属タレント坂田利夫に入門。27歳で廃業後、ホテルレストランのサービス員の派遣会社に入社。31歳の時、前出会社の倒産に伴い、知人のシティホテルに入社。その頃、司法試験を受けたいと、近畿大学通信教育課程の法学部に入学。全5回挑戦するも失敗。41歳の時、やはり役者の夢が捨てがたく、市民劇団に入団。ホテルを辞め、アルバイトを掛け持ちして生活する。その後、脚本家や、小説や作詞家として、世に出る機会をうかがうも、目が出ず挫折。48歳の時、京都にあるゲストハウス等の施設運営会社に正社員として入社。そこで、初めて「客室清掃」を知り、人生の中で初めて充実感を得るも、コロナの影響で解雇となったため、培った清掃技術を生かそうと、53歳の時に大阪で清掃会社、株式会社チェッカーワンを設立。