INTERVIEW
若い世代こそ活躍できる消防設備業界
株式会社防災通信工業
代表取締役 澤邊康敬
株式会社防災通信工業は、千葉県柏市を拠点に、消防設備の設計施工・点検・メンテナンスを一貫して行う総合企業だ。1994年の設立以来、実績と信頼を積み上げてきた同社だが、ベテランの多い業界では珍しく社員の半数以上が20代というのも大きな特徴だ。若手社員をけん引し、成長を続ける澤邊康敬代表に話を聞く。
消防設備を設計から点検まで一括サポート
我々は、大手メーカー「ホーチキ株式会社」の特約代理店として消防用設備の設計、施工から点検、消防への申請まで、そのすべてを一貫して請け負っています。消防設備というのは、ざっくり言うと消火器自動火災報知設備ですね。誘導灯と避難器具等、各建物に設置義務があるものに対して施工を行い、半年に1回義務付けられている消防設備点検を実施しています。
ビルのオーナーや地主、管理会社や企業から直接ご依頼をいただくこともあり、千葉県を拠点に関東全域をフォローしていますが、我々の業界自体高齢化が進んでおり、今まで消防点検を担っていた会社が廃業してしまったから、と発注をいただくことも増えました。点検する会社がなくなっても建物は残っていますし、消防点検というのは半年に一度必ず実施しなければならないものですから、お困りになって我々を頼っていただけるというのは非常にありがたいことだなと感じています。
点検から工事までスムーズに進むのが強み
消防設備というのは、有事の際に必要となる設備であり、普段は皆さんの目にあまり触れることがありません。ですが、有事の際に正常に作動するかどうか。それが一番大事なこと。通常だと施工だけ、点検だけと特化している会社が多いなかで、当社は設計から施工、消防への届け出までを一貫して対応が可能であることが大きな強みです。設計や施工を請け負っていると、引き渡しが済んだあとの消防点検の際に円滑に業務が進みます。例えば点検だけ請け負う場合、不良箇所を見つけたあと施工業者に依頼する必要があり、その施工業者が改めて現場調査を行って見積もりを出すなど、費用もかさみます。弊社の場合は、点検班が工事課に不良箇所を報告する際に、図面も含めて場所を特定するため、現場調査もカットもでき短時間で終わるうえに費用面でもコストが下げられるというメリットがあります。
大規模にビルを改修する場合も、点検を請け負っていればすでに建物全体を知っていますので、円滑に工事を進められます。また、ビルのオーナーや管理会社にとっても1社に連絡すれば済むというところで負担も軽減できるのではと考えています。それに加え、当社としても建物自体に詳しくなり、誰が行っても対応できる状態になるため、そういった意味ではお互いにwin winな関係性を作れるのではと思っています。
高齢化する業界のなかでも若手の多い会社
当社は、社員の半数以上が20代という、業界では比較的若い会社です。僕が現場でバリバリ働いていたころ、当時は20代後半でしたが、周りを見ると僕より年上の方がほとんど。僕が一番若いくらいだったので、このままいくとまずいなとはうすうす感じていました。消防点検は建物がある限り必須なものですから、業界が高齢化してしまうと、それに対応できなくなってくる。また、経験がものをいう業界なので、それを継承するにも年数が必要です。それもあって、自分が会社を経営する立場になったときには、若い世代をどんどん採用していかなければいけない、と考えていました。
ですが、同業他社を見ると今も若い世代はほとんどいない状態。よくよく考えたら自分も20代後半にこの業界に入るまで、消防設備の会社は何をやっているのだろう、とよく分かっていなかったなと。お恥ずかしい話ですが、父が長いこと消防設備業界に携わっていたにも関わらず、全く知らなかったんですね。自分がそういった状態だったので、今の若い世代なんて絶対この業界のことを知らないだろうと。知らなかったら就職先の候補にも挙がらない。まずは、業界を知ってもらうにはどうすればいいのか、と考えました。たまたま高校で教鞭を執っている同級生がいたため、認知度を上げたいことを伝え、協力してもらうことに。この業界での就職に興味ある高校生がいたら紹介してほしいと地道な活動を続けた結果、数年前に18歳の若手が入社。そのとき社員はすべて40代オーバーでしたから、すぐに辞めてしまうかな、と思っていましたが、意外にも必死についてきてくれて、今もまだがんばってくれています。一人、若い世代の社員がいるとトントン拍子で同世代が入社してくれるようになりました。周りからは僕が高校に声をかけたから、だと言われますが、本当に最初に入ってきてくれた若手のおかげ。よくがんばってくれたなと思いますし、彼を紹介してくれた同級生にも感謝しています。
若手社員が働きやすい環境を
若手社員が多いこともあり、なるべく働きやすい環境を作れるよう意識しています。上の世代になると「僕らが若いときは」という言葉を使ってしまいがちですが、時代はどんどん変わっていますから、当社のベテラン社員には「僕らが若いときはこうだった」という指導は絶対にするな、と伝えています。最低限のルールを守ったうえで今の若手にあった教育方法を上の世代が探さなければいけない、ということをよく話していますね。僕自身、若手の社員との対話がまだ足りていないと思うことも多々あります。そこまで大きな会社ではありませんから、代表である僕が遠い存在になってしまわないようにしたいなと。気さくに話しかけてもらえるような雰囲気作りを心がけています、悩み事があれば、それがプライベートでも、仕事でも何でも相談してくれるのはうれしいことですし、社員との距離感が近いというのは、僕が理想としている会社像ですから。
お客さまに満足してもらうためには、どんな作業をするにしろ、仕事をするときにはいい精神状態でいることが大切です。社員にはプライベートも含めて充実してほしいと思っています。自分が常にいい精神状態で仕事ができる=お客さまに対して満足ができるサービスができるんだということも、常に伝えていることです。
若い世代にこの業界で働きたいと思ってもらうために
正直なところ、代表に就任して3年目といまだ試行錯誤している最中です。ただ、そのなかでも当社の社員がその家族を含めて10年後も健康で幸せであってくれたらいいと思っています。今年、埼玉に支店を作りましたが、その場所で根を張ってやっていくという覚悟を持つためにも、土地を買い上げ自社ビルを建てました。逃げ道は必要かもしれませんが、ここでやると決めたらダメになる理由を考えたくないなと。よく社員に「失敗しても、それをいい失敗にしよう」という話をします。若手の多い会社ですから、仕事が嫌いにならないように失敗も次に活かしていってほしいと口酸っぱく言うように心がけています。
今後は、若い世代をさらに育てる必要もありますし、現場にはさまざまなポジションの仕事がありますから、経験のある高齢のベテランと若手が融合していくことが一番では、と考えています。10年、20年後、この業界がどう変化するのか分かりませんが、消防設備は人の命に直結するものでもありますので、働き手を増やしたい。会社としての成長はもちろん、もっとこの業界のことを知ってもらい、若い世代にここで働きたいと思ってもらえるようにしたいですね。
千葉県柏市を拠点にしている我々がグローバルなところで世界に発信、というのは難しいところはありますが、まずは地元を大事にすることから始めなければいけないと考えています。ローカルな部分で成長することがグローバルにつながっていくのではないでしょうか。その第一歩として、地元に還元したいという想いから高校の野球部や相撲少年団に支援を行うほか、柏レイソルのクラブスポンサーも勤めています。地域を盛り上げることはもちろん、スポンサーとして当社の名前が出ることがこの業界を知っていただく一助になればと考えています。