INTERVIEW
家づくりを超えて、地域を支える「家守り」
株式会社CRAFT
代表取締役 黒田正
地域密着型の住宅づくりを掲げる株式会社CRAFT。効率化が進む住宅業界において、同社は自然素材を活用した健康住宅にこだわり、入居後も長く住まいをサポートする「家守り」として地域の住宅を見守り続けている。消費型の住宅建築に警鐘を鳴らす代表取締役の黒田正さんに、日本の住宅業界が今再考すべきポイントを聞いた。
地元の住まいを守る工務店
当社は、住宅新築工事一式やリフォーム、電気設備工事などの建築サービスを提供しています。設立は2006年、私の地元である埼玉県三芳町に拠点を置き、地域に根差した事業を展開してきました。地域密着型の工務店が減少し、住宅建築の選択肢が限られる中、地元の発展に少しでも貢献したいという思いが会社設立の原点です。家づくりは単なるビジネスではなく、地域の人々の生活基盤を支える社会貢献の1つです。地元の方々と密接にコミュニケーションをとり、長く住める家を提供することが当社の使命だと考えています。
日本では、昭和30年前後から始まった高度経済成長期において住宅供給が急務となり、住宅建材の大量需要が発生しました。その結果、スピード重視の工業化住宅が急速に普及し、この背景からハウスメーカーが台頭。効率を重視した住宅建築は、現在もなお主流となっています。私も20代から30代の頃にハウスメーカーの仕事に携わり、設計や施工の技術など、多くを学んできました。しかし、効率化がもたらすデメリットである化学建材による健康被害や、利益優先の住宅設計に疑問を抱く場面も少なくありませんでした。「住宅づくりに迷いや葛藤を抱え続けるよりも、お客様にとってより良い住宅を自ら提供したい」。その思いから現在は、お客様の健康と快適な暮らしを実現するため、長く住みよい住まいをつくることに尽力しています。
家づくりへの情熱と原点
幼少期からものづくりが好きで、父親と一緒に庭に池を作る計画を立てたり、設計図を描いてみたり、建築に関わるような遊びもしていました。学校卒業後、建築業界でのキャリアをスタートさせ、マンション施工に携わった後は、大手ハウスメーカーの施工を担当する工務店へ転職。耐震性を担保するための工業化製品の使い方や、構造計算の重要性など、さまざまなことを学びました。これらの経験があったからこそ、現在、技術に裏打ちされた安定的な家づくりができていると思っています。
大工としてのスキルを認められ、何度か表彰を受けた経験もあります。これを機にハウスメーカーから直接取引を希望され、創業に至りました。会社規模は決して大きくありませんが、その分、年間を通じて安定的に仕事を受け、かけがえのない従業員や協力業者を守ることに注力してきました。社内には、大工を引退された70代の方も在籍しており、全員が家族のような存在です。
健康と環境に配慮した自然素材の活用
アレルギー体質の私にとって、健康を害さない住環境は特に重要です。化学物質を含む建材の使用を最小限に抑え、できるだけ自然素材を活用することで、健康被害を避け、感覚的にも「居心地がいい」と感じられる住宅づくりに努めています。また、WB工法によって壁内に空気を循環させることで化学物質の濃度を低減し、湿気や結露の発生を防ぐ工夫もしています。これにより、室内の空気が常に新鮮に保たれ、高温多湿な日本においても快適な住環境を実現できるのです。
自然素材の活用は単に健康面のメリットだけではなく、家の耐久性や風情にも寄与します。例えば、無垢材のフローリングは年月を重ねるごとに味わいが増し、住む人に心地よさを与えてくれます。さらに、化学建材よりも環境負荷が少なく、持続可能な家づくりの一因になってくれることも特徴です。このように環境と調和し、人に癒しを与えてくれる自然素材の魅力を発信し、地域の方々に健康的で快適な住環境を提供できるよう努めています。
顔が見える家づくり
住宅づくりを依頼する際、ハウスメーカー、ビルダー、建築事務所、工務店という4つの選択肢があります。それぞれにメリットはありますが、私たち工務店の強みは、設計から施工まで一貫して自社で行えるということです。特に、お客様と直接顔を合わせてコミュニケーションを図ることができるため、誤解や伝達ミスを防ぎ、お客様の要望に寄り添った家づくりを実現できます。
また、他の選択肢では設計と施工が分業されることが一般的ですが、そうすると、伝達ミスが生じやすくなり、お客様の住宅が完成した際に「こんなはずではなかった」と言われてしまうケースがあります。私も過去に、お客様から「イメージと違う」と言われたことがあり、一生に一度である家づくりに二度とあってはならないことだと痛感しました。この経験を教訓として、当社ではお客様の窓口を一本化し、設計段階では3Dシミュレーションを用いて細部まで確認していただくなど、齟齬が生じないようにイメージ共有を徹底しています。
使い捨ての家づくりはもうやめよう
環境問題が叫ばれる中、「リサイクル」は世界的に重要なテーマとなっています。しかし、日本の住宅の平均寿命は約30.8年に過ぎず、これはいわば「使い捨て」の住宅が量産されているということです。この背景には、高度経済成長期に住宅需要が過剰に高まり、住宅性能が後回しにされてきた日本独自の事情があります。アメリカの住宅の平均寿命が80年、ヨーロッパが120年であることを考えると、日本の住宅寿命の短さは異常であると言わざるを得ません。日本の住宅業界こそ、グローバル基準を取り入れ、消費型の住宅生産をから脱却すべきでしょう。
日本の住宅は、木造建築であるがために寿命が短いと思われがちですが、歴史あるお寺などの木造建物が1,000年も残っていることを考えれば、木造=脆いという見方は大きな誤解です。私たちは木材をはじめとする自然素材を積極的に利用し、この誤解を払拭していきたいと考えています。さらに、耐震性に関しては、工業化製品を適切に組み合わせることで、耐久性を向上させ、資産価値を維持できるような住宅づくりを進めています。住宅価格が右肩上がりに上昇している昨今、長期的な耐久性はこれからますます重要な要素となるでしょう。私たちは、住めば住むほどコストパフォーマンスが良くなる家をつくり、環境と住まう人、双方に優しい工務店でありたいと考えています。
「家守り」としての使命を全うしたい
私の仕事の原動力は、お客様から頂く「ありがとう」の一言です。家づくりという非常に繊細な仕事に従事する中で、お客様の笑顔や感謝の言葉に支えられています。これからも、より多くの方々に喜ばれる住宅を提供し、将来的には、子供達をはじめとする地域住民の方が気軽に利用できるような「集いの場」を企画から施工まで手掛けてみたいと思っています。
工務店はかつて、「家守り」と呼ばれていました。これは、地元の工務店が住宅建設だけでなく、その後のメンテナンスやトラブル対応まで一貫して引き受け、地域の住まいを守り続ける存在であったからです。現在、日本ではハウスメーカーのブランド力が圧倒的で、多くの人々が安心感を求めてハウスメーカーに住宅建築を依頼しています。しかし、住まいに関する細かなご要望やこだわりを実現するためには、ハウスメーカーではできないことがあるのも事実であり、まさにその点こそが「家守り」である工務店の使命だと私は捉えています。これからも、当社が手掛けた住宅のお客様とは、一度きりの関係にとどまらず、長年にわたる信頼関係を築いていきたい所存です。そして、「家守り」の精神を再び地域社会に根付かせ、皆さんの豊かな暮らしを支え続ける存在でありたいと願っています。